「なあ、委員会とかって入るかー?」 ぬっと俺の目の前に現れたのは、水谷だった。 見知らぬ人間ばかりである高校生活において、同じ部活の人間とは仲良くなりやすい。 まだ新学期が始まって1ヶ月経っていないが、放課後も毎日のように一緒にいると自然とその距離も近くなる。 移動教室やら何やらがあれば、俺と水谷と阿部とつるむことが自然と多かった。 「・・・ん、俺は図書委員、かな」 と、俺が答えると、水谷は大げさに「えぇー!」なんて声を出した。 「へぇ・・・花井、本とか好きなわけ?」 阿部は隣にいる水谷に少しだけウザそうに目を細めてからそう言った。 「おお、割とな」 「けどさ、図書委員なんてめんどくさいじゃん!」 「確かに。これからあの監督のことだし、練習もきつくなると思うぜ?」 ・・・・・・それは、確かに。 今現在でも、受験で体がなまっていたせいかきつい部分もある。 大変だろうな、ということなんて簡単に想像できる。 けれども、それ以上に先輩とまた話が出来ることを考えると、胸が踊った。 タ チ ア オ イ しかし、委員会決めの当日、あろうことか俺は発熱し学校を休んでしまった。 後日阿部が「花井は委員会入ってないよ」なんて涼しい顔で言ってのけた。 俺が図書委員に入りたがってたのを知ってたら、せめて伝えるぐらいしてくれればいいのに。 俺が溜め息をつくと、水谷がつつと寄ってきて、 「俺、花井が図書委員っていうの言おうと思ったんだ」 と、耳元でこそっと言った。 「は?」 「けど阿部が、花井はこれから大変だから委員会入れないほうがいいって・・・」 「・・・・・・阿部のヤロ・・・」 (まあ結局その阿部の予想は大当たりで俺は野球部の主将に任命されたわけだが。) ああ。先輩との時間が消えてしまった。 また先輩と話が出来ると思ったのに。 俺は溜め息をつくしかなかった。 先輩との接点も消え、意気消沈。 しかし、部活が予想以上に大変で時間はあわただしく過ぎていった。 そんな、ゴールデンウィークの明けのある日。 昼休み、阿部と水谷といつものように昼食をとっていた。 水谷がいつものように騒いで、阿部がそれをしれっとかわす。 他のクラスメイトたちもわいわいがやがやと騒いでいた。 と、そこに俺の大好きな声が響いた。 「花井くーん!!」 教室のドアからひょこっと顔を覗かせているのは、まさしく先輩だった。 「え、先輩!?」 俺は驚き目を見開いた。 クラスメイトの視線も一気に俺に集中した。 俺は何事かと思いながら、クラスメイトたちの視線を尻目に先輩のそばへ駆け寄る。 「ど、どうしたんスか」 「ちょっと花井君に渡すものがあってね・・・」 先輩は周りの視線を気にすることなく、ニッコリと笑う。 「何ですか・・・?」 わざわざ教室までやってきてくれるなんて。 いったいなんだろうと、俺の心臓は大きく鳴る。 「花井君、今回は図書委員じゃないんだね」 「あ、ハイ・・・委員会決めの日、学校休んじゃったんッスよ」 俺が苦笑すると、先輩は「それでかー」と、納得したようだった。 「委員会で会えると思って渡してなかったんだけど・・・コレ・・・」 「・・・何、スか・・・?」 先輩が差し出したのは、キレイにラッピングされたものだった。 「入学祝い!開けてみて」 満面の笑みの先輩に促されるまま、俺はその包み紙を丁寧に剥がす。 「・・・っ、コレ・・・!」 出てきたのは、先輩から借りた本の中でも俺が一番気に入っていた本だった。 「ほら、花井君、その本好きだったでしょ?」 先輩のその言葉に、俺は感動して涙が出そうになってしまった。 先輩が、俺の好きなものを覚えていてくれた。 それが、たまらなく嬉しいのだ。 「っ!あ、あの、ありがとうございます!」 俺はそれはもうすごい勢いでお辞儀をした。 「いやいや!そんな盛大にお礼言われるようなことしてないよ!」 先輩は少しだけ頬を赤らめると、目の前で手をブンブンと振った。 「それにしても、1年生の教室ってちょっと緊張するなぁ」 と、苦笑する先輩。 「そうッスか?」 「うん。なんていうか、若さがあるよね」 「たった1年じゃないッスか」 「あはは、そうなんだけどねー。」 それから少しの間教室の前で先輩と雑談をした。 はじめは好奇の塊だったクラスメイトたちの視線もいつの間にか散れ散れになっている。 「ー・・・!まだかよー・・・!」 休み時間も残り数分となった頃、先輩の名を呼ぶ声がした。 (・・・男の、声・・・・・・) 俺はその声に、小さく動揺してしまった。 「あ、やばい・・・人待たせてたんだ・・・!」 先輩は俺に「それじゃ」と言って手を振りながら、騒がしい廊下を駆けていく。 残された俺は、先輩の姿が見えなくなるまで、その姿を見つめていた。 姿が見えなくなり、席に戻るか、と小さく溜め息をつくと、 「はーなーいー・・・」 と、耳元で声がした。 「ぅわっ!?」 俺は思わずビクリとなる。 「水谷!阿部!」 バッとすごい勢いで振り向けば、そこにはニヤリと笑っている水谷と阿部の姿があった。 ・・・なんだよ、こいつら。なんかすげームカつくな。 水谷に腕をつかまれ、阿部に背中を押されて自分の席へ着く。 「いいねー青春だねー!」 水谷は相変わらずニヤニヤと笑っている。 「花井は年上が好きなわけね」 阿部は表情はないものの、明らかにからかっているのが伝わる。 「告白とかしないの?」 「・・・そりゃ、する、つもり、だけど・・・」 俺が正直に言うと、「おぉ!!」と、水谷が騒いだ。 「ま、せいぜい頑張れ」 「お前ムカつくな・・・!」 上から目線の阿部をギロリと睨むと、昼休みの残り時間でかき込めるだけ弁当をかき込んだ。 それから何度か俺は本を借りることを口実に図書館へと足を運んだ。 「おー!花井だー。、花井ー」 「どもッス」 図書館へやってくると、先輩はいつも同じ男の人といた。 その人とも何度か顔を合わせているうちにすっかり知り合いとなっていた。 確か、スズキさん、・・・だった気がする。 「あ、花井君!いらっしゃい」 「お前も本好きだなー」 「も、って何よ。嫌そうに・・・」 先輩はギッとスズキさんを睨みつける。 二人は付き合っているのだろうか。 どうなのか俺は確かめるのが怖かった。 スズキさんはカウンターに座っている先輩にちょっかいを出しては先輩にしかられていた。 けれども、二人の表情はどこか穏やかで暖かく・・・ これは確かめるまでもない。 付き合っていなかったとしても、間違いなく二人の気持ちが同じであることは明らかだった。 「そりゃ付き合ってるだろーな」 さらりと言ってのけたのは、阿部だった。 「・・・フォローも何もねぇのかよー」 俺は大きな溜め息をひとつ。 先輩がうちの教室にやって来て以来、 昼休みにはよく俺の恋愛相談が繰り広げられるようになっていた。 「ここははっきり言って振られてスッキリしたほうがいいんじゃねぇか?」 阿部の言うことはもっともの様な気がした。 「そうかもな、」と言おうとした瞬間、 「けどさあぁ、先輩っていつもその人といるんでしょ?」 と、今まで黙って聴いていた水谷が口を挟んだ。 確かにそうだ。 俺が先輩に会うと、必ずスズキさんがいた。 「・・・俺と水谷で、そのスズキをおびき出すか?」 「お、いいね」 何となく乗ってきている阿部と水谷。 ああ。こいつら親身になって聴いてるくせにどこかで楽しんでやがる。 それでも、なんだかんだ阿部と水谷と3人で話し合い、告白をする決意を固めた。 先輩が図書当番の日は毎週水曜日の昼休み。 これはとっくに知ってる事実だった。 俺は図書館のドアを前に、大きく深呼吸をした。 今頃、別行動をとっている阿部と水谷が 上手い具合にスズキさんを誘い出してくれているはずだ。 覚悟を決めると、俺は図書館の中へ足を踏み入れる。 「お、花井君。いらっしゃーい」 先輩がいつもの笑顔で出迎えてくれた。 「ッス」 俺もいつものように軽くお辞儀をする。 「よ、花井!」 続けていつものようにスズキさんが俺に挨拶をする。 俺はそれにも先ほどと同じように応えた。幸いにも俺ら以外の生徒の姿はない。 ・・・って。 あれ?? 今頃は阿部と水谷がスズキさんを誘い出しているんじゃ・・・? どうしたのかと動揺してしまう俺。 そこへ、丁度良く携帯のバイブが俺の太ももを揺らす。 すぐにおさまったことからそれがメールであることはすぐにわかった。 俺は本棚の影に隠れると、こっそりと携帯電話を広げる。 それは、水谷からだった。 『ごめん!田島に捕まった!』 ああ、と思った。 田島はやけに鋭いから無理に離れようとすればおそらくその理由もわかってしまうはずだ。 『いいよ、気にすんな』 と、俺は素早く返事を返す。 けれども、ここまで来て何も伝えずに帰るわけにはいかないと思った。 せっかくここまで決意を固めたのだ。 行くしかないだろ、俺! 俺は携帯をズボンのポケットに突っ込むと、小声で「ヨシッ」と気合を入れる。 「あの、先輩・・・」 「んー?」 「少し、話があるのですが・・・」 声が震えているのがばれないように、しっかりと言葉を発した。 「なに?」 先輩は質問か何かだと思っているようで、普段と変わらない調子で答える。 「・・・それで、あの・・・・・・」 俺が言葉を詰まらせていると、スズキさんが「あー・・・」と声を出した。 ふとスズキさんのほうを見ると、苦笑していた。 そして、 「俺、ちょっと職員室に用事あったんだっけ」 と、頭をかきながら言った。 「え、そうだったんだ」 「おう。だからちょっと行ってくるな」 スズキさんはそう言うと、図書館を出て行く。 「・・・あのっ、ありがとうございます」 図書館のドアに手をかけたスズキさんに向かってそう言うと、スズキさんは振り返り「何のこと?」と笑った。 俺は、この人には叶わないと悟った。 「あ、で、花井君、話は?」 きょとんとしている先輩を見て、俺はゴクリと唾を飲み込み、拳を強く握る。 言え、言え! 言葉が直前で詰まる。 けれども、なんとかそれを押し出した。 「・・・あの、俺・・・中学の頃から、先輩のことが好きでした」 俺が言うと、先輩の顔がカッと赤く変わる。 「え、は、花井君・・・?」 「・・・先輩が好きです」 まさか告白されるだなんて思ってもみなかったようで、先輩はキョロキョロと視線をあちこちに走らせた。 「・・・こ、これ、ジョーダンとかじゃ・・・」 「ないです。俺、本気です」 俺は真っ直ぐに先輩を見つめたままそう言う。 俺がどれだけ先輩のことを真剣に想っていたのかを知ってもらうために。 先輩も、俺のそんな表情を見て、俺の真剣さを感じ取ってくれたようだ。 あちこちに走らせていた視線を俺に定める。 「・・・ごめん。あたし、スズキが好きだから」 先輩は、言葉を濁らせることなく、はっきりとそう言った。 「はい、知ってます」 俺も先輩に負けないくらいはっきりとそう言った。 「え?知ってる??」 すると先輩は、先ほどとは打って変わって拍子抜けしたような声を出した。 「先輩のこと見てたんですから、先輩が誰を見てるかなんてすぐにわかります」 「・・・そ、そっか・・・」 「・・・俺、自分の気持ちにケリつけたかったんです」 俺はそれだけ言うと、 「ありがとうございました」と先輩にまたお辞儀をして図書館を後にした。 先輩は何も言わずに俺を見送ってくれた。 昼休み終了まであと10分くらい残っている。 阿部や水谷はまだ9組にいるんだろうなと思いながら教室へ戻った。 すると、そこには何故か野球部の面々が集まっていた。 「んなっ!お前ら・・・!何でこんなに揃いも揃ってんだよ」 俺が怪訝そうに言うと、阿部が 「お前を慰めに来てやったんだろ」 と、涼しい顔で応える。 「花井!安心しろ、お前はイイオトコだぜ!」 田島が言う。 ・・・この様子だと、俺のことは皆に筒抜けらしい。 「甲子園行って、振ったこと後悔させてやろうぜ」 と言うのは水谷。 他にも皆が思い思いの言葉をかけてくる。 そのせいで、俺はこらえていた涙を堪えられなくなってしまった。 けれども泣き顔を見られるのはさすがに恥ずかしく、机に突っ伏す。 「うおっ!花井が死んだ!」 「花井〜〜!」 「お前はいいヤツだっ」 頭を撫でられて、また涙が溢れる。 ・・・なんだよ、こいつら。 普段は俺のこと散々ないがしろにしてるくせに。 見ていてください、先輩。 俺、こいつらと一緒に絶対に甲子園に行きます。 ・・・んで、先輩に負けないぐらい好きなヤツ見つけますから。 チームメイトの優しさに触れながら、俺はそう決意した。 07/07/02 西浦ーぜたちに励まされる花井を書きたかった・・・!! 図書委員設定が多いのは、委員会の仕事がほぼ全国共通だからですww |