朝の目覚めからいつもと違う今日。
今日は記念日。
和己と恋人という関係になってから丁度一年が経つのだ。

こんなことを覚えているなんて、自分も柄にもなく乙女やってるなぁって思う。
けど、あたしはそんな記念日をいちいち大切にしたいほど和己のことが好きなんだと思う。























き ら り 、 そ の 手 の 中 に

























あたしと和己は同じクラス。
けれども、桐青の野球部は朝練があるから、いつも教室に入ってくるのはギリギリ。
もちろん今日も、ギリギリだった。

和己は教室に入ってくるなり乱暴にカバンを置くと、
暑さを抑えきれないようで下敷きでパタパタと自分を扇いだ。
あたしの席は、和己の左後ろ(といっても、左に4列、後ろに2つ離れているんだけど)
だから、あたしはコッソリと和己の背中を眺めるのが朝の楽しみだった。


(・・・肩、やっぱり広いなぁー・・・)

ボーっと頬杖をつきながら眺めていると、不意に和己が振り返った。
バチッとあった視線に、あたしは思わず目を見開く。
和己は、何も言わずにあたしに笑いかけるとすぐに元の体勢へと戻る。


(・・・あ、れ・・・や、ヤバイ・・・嬉しい・・・)

そんな些細なことも嬉しくて、あたしはニヤケそうになる顔を堪え切れなかった。
和己も覚えててくれるのかな?









けれども、そんな期待はどこへやら。
和己はいたって普通。
あたしも和己もあんまりベタベタするタイプじゃないから
お互い教室にいてもそんなに話をするわけじゃないし、お昼だって別々だ。


「・・・はぁー・・・」

昼休み、あたしは友達のとお弁当を食べながら大きな溜め息を一つ。

「でっかい溜め息ー・・・」

は美味しそうな唐揚げを食べながら苦笑した。

「・・・だって・・・和己の態度がいつもと変わらないんだもん・・・」

「あー・・・はいはい。記念日ね」

「朝にね、ちょっと目が合って期待してしまったわけだよ」

「聞けばいいじゃん」

「・・・・・・ヤダ・・・」

「はあ?」

「・・・だ、だって・・・あたしばっかり覚えてて舞い上がってたらヤだ」

あたしが言うと、はニヤリと笑い、あたしの頭を撫でてきた。

「な、なに・・・」

怪訝そうにあたしが聞くと、は相変わらずの表情のまま

、カワイー」

と言った。
・・・あ、これはからかわれてるな。
あたしはには好き勝手やらせたまま、ご飯を口に運んだ。


和己は本当に覚えてないのかな。











そう思いながら、放課後。
せめて記念日なんだから一緒に帰りたい。

あたしは授業が終わると和己の傍に駆け寄った。


「和己!」

あたしが呼ぶと、和己は少し驚いたように「おう」と返事を返し、

「・・・どうした?」

ケロッとした表情のままあたしに尋ねる。


「・・・今日、一緒に帰ろ!」

あたしは少しだけドキドキしながらそう言った。



「あー・・・ごめん、今日は無理だ」


しかしながら、和己にズバッと一刀両断される。


「え、なんで・・・」

「今日は部活の後にちょっと監督に呼ばれてるんだ。遅くなると思うから・・・」

「・・・・・・」

「・・・?」

「・・・・・・わかったよ・・・」

キッと和己を睨んでから、あたしは走り出した。
「お、おい!」と、和己が後ろから呼んでいたけれど、知らないフリをする。

・・・何だよ、覚えてないじゃん。和己のバカ!

















不貞腐れたまま、あたしはさっさと家に帰った。



今日は特別な日で・・・特別な日になるはずだったのに。
いつもと変わらない、普通の日だった。


「・・・はしゃぎすぎたのかな、あたし」

時刻は、もうすぐ夜10時。
いくら遅いといえど野球部の練習は終わっているだろう。
・・・学校で、一方的に和己を睨みつけて、ちょっと悪いことしちゃったな。
お疲れ様のメールでも送っておこうと、携帯電話に手を伸ばす。

すると丁度いいタイミングで携帯電話が鳴る。

あたしは一瞬ビクッとしたけれども、携帯の画面に映し出された名前にちょっと嬉しくなる。


(やっぱり好きなんだなぁ・・・)

と、当たり前のことを考えてしまう。



「・・・もしもし」

『もしもし、?』

「うん」

電話越しに聞こえた声は、和己だ。

『あのさ、今からちょっと外出れる?』

「え、今から・・・?」

『今、の家の前にいるんだけど』

あたしの家の前に居る、という和己の言葉にあたしは驚くしかない。
だって、あたしと和己の家の方向はまるで逆・・・
・・・とまではいかないがそれなりに距離がある。


「な、何やってんの!疲れるでしょ!」

『あははは。俺はそんなにやわじゃないよ』

「・・・今行くから、待ってて」

『ああ』


ピッと乱暴に電話を切ると、夜も遅いから急ぎつつも物音を立てないように移動する。
玄関のドアを開ければ、「よっ」と片手を挙げた和己がいた。


「・・・もう10時過ぎてるよー・・・」

いつもと変わらぬ和己の表情に、あたしは大きな溜め息を付く。
夏大会も近い桐青高校野球部は明日の朝も早い。
今は、少しでも体を休めるべきなのに。


に渡したいものがあってね」

あたしの溜め息なんて気にも留めない様子で、和己は優しく笑った。

「・・・渡したいもの・・・?」

あたしが首を傾げると、和己は

「渡すから、目閉じて。で、手出して」

と言う。
あたしはとりあえず言われたとおりに目を閉じ、両手を前に出した。
これでもしあたしが忘れた数学のノートだったら殴ってやろう。




じっとしていると、和己の大きな手があたしの右手を包み込む。
そして、あたしの指に、ひんやりとした何かがはめられる。


あたしはそれが何だかわかった瞬間、閉じていた目をバッと開いた。


「・・・・・・、か、和己、こ、れ・・・」

あたしが震えた声でそう言うと、和己は

「・・・目、開けるの早い」

と、苦笑した。

あたしは自分の右手の薬指にはめられたシルバーリングと和己をまじまじと見つめる。

「え、な、なんで・・・」

思いもよらない贈り物に、あたしの頭は完全に混乱していた。



「・・・今日は、記念日だろ」

だから、そう言った和己の言葉でやっと理解することが出来た。

そうだった。
あれだけこだわっていた記念日だった。


「・・・和己、覚えてた・・・?」

「・・・忘れるわけないだろ」


ニッコリと笑う和己に、あたしはたまらず抱きついた。


「・・・っりがと・・・!」

嬉しくて、泣きそうになってしまって、声が少し震えた。
和己はそんなあたしをしっかり抱きとめて、優しい腕であたしを包んでくれた。



「・・・、愛してる」


恥ずかしがることなくそう言った和己は、世界で一番かっこいいと思った。















「・・・けど、和己ゴメン・・・あたし、プレゼントとか用意してなくて・・・」

あたしがしゅんとなりながら言うと、和己はまったく気にしていない様子で笑う。
そして、少し間をおいた後、あたしの左手を取った。
和己はそのままあたしの左手の薬指を掴む。




「・・・じゃあ、さ。のココ、予約させて」

「・・・・・・こ、こ・・・って、薬指?」

「ああ。本当はさっき、左手にはめようか迷ったんだけどね。
 やっぱりもっとキッチリしたヤツのほうがいいと思って・・・」


あたしの顔が熱を持っていくのがわかる。
だって、それってつまり・・・



「プロポーズみたい・・・」


あたしがポツリと言うと、和己は


「そのつもりだよ」


と、また笑った。
その表情に、あたしもつられるように笑う。



「・・・しょうがない。和己に予約させてあげよう」

ちょっとふざけた調子であたしが言うと、
和己は「ありがとう」と言いながら、あたしにそっと口付けた。













07/10/14
初和さん!
和さんのお嫁さんになれたら幸せな家庭が築けると思います!