ついてない。
思えば今日は朝からついてなかった。


寝坊はするし、朝ごはんでは嫌いなニンジン入りのサラダがでるし、
時間割も曜日を間違えて、教科書はほとんど友達に借りた。


こんだけついていなかったらこうなることも予想できたでしょ。






ああ、そっか。
そういう予想も出来ないからついてないってことなのかな。




バシャバシャとすごい音をたてて降っている雨を見ながら、あたしは大きな溜め息を吐いた。






















     恋 の 落 雷 注 意 報


























何で急にこんなに降ってくるの。
さっきまでは晴れていたはずなのに。

先生に呼び出されて、先生の雑用を手伝わされて、気付けば辺りは暗くなっていて。
この暗さは、時間のせいもあるけれど、空を覆いつくす雲のせいだ。




「・・・濡れて帰るしかないのかな・・・」


ああ。最悪。
クラスメイトたちはもう残っている形跡がない。
そりゃそうだ。教室にある時計を見れば、7時を過ぎている。
こんな天気な上、こんな時間まで残っている人なんてまずいない。

うう・・・なんだか怖いかも。


あたしは恐怖心で心臓がドキドキとなっていたけれど、
それでも帰る支度をしないと帰れないわけで、机に座ると、その中を漁る。







ゴロゴロゴロ・・・


机の中にある教科書やノート類を漁っていると、ふと外から嫌な音がした。
あたしは、その音に冷や汗が流れる。



そして、次の瞬間・・・


ピカッ、と教室の中が光る。
いや、違う。光っているのは教室の中だけじゃなくて、外も。




「・・・・・・」



ど、どうしよう・・・




ピカッ

「ひやっ!」



また、光った。そして、その数秒後に大きな音がする。
さっきよりもずっと大きな音だ。


あたしはその音に、無駄かもしれないけれども机の下に隠れる。
何を隠そう、あたしは雷が大の苦手なのだ。


目を閉じて、両手で耳を塞ぐ。
けれども、まぶたの中が赤くなったり、小さく音が漏れたりする。
どうしよう、このままじゃ帰れない。











ピカッ、っと一際大きく光った。
そしてすぐに大きな音がすると、教室の電気が消える。



「ぎゃあぁぁあ!!」


あたしはそれと同時になんとも可愛げのない叫び声を出す。

何でこんな時に限って、あたししかいないのだろう。
もう半泣き状態だ。



また少しして、光り、あたしはまた悲鳴を上げる。
すると、今度はそれに混じって、ガタンと雷とは違う音が、遠くからきこえた。




今度は何!?


あたしは勇気を振り絞って、目を開ける。






「あ、あの、・・・う・・・」

「・・・三橋くん・・・?」


そこに居たのは、同じクラスの三橋廉くんだった。
おどおどとしながら、視線をあちこちに走らせている三橋くん。
どうやらあたしの悲鳴に驚いたようだ。

あたしは三橋くんと同じクラスではあったけれど、
それまであまり話しをしたことがなかった。
というか、三橋くんはいつもどこか怯えていて、話し掛けづらかったというのもある。



「三橋くん、どうしたの・・・?」

あたしが言うと、三橋くんはキョロキョロとした後、視線を下に向けて、

「きょ、教室に、忘れ物・・・おべんと・・・」

と、途切れ途切れにそう言った。


「あ、そうなんだ・・・」

雷は、先ほどよりも弱まってきたようで、あたしはホッと胸を撫で下ろす。

けれども次の瞬間、ピカッと、また光る。



「きゃぁぁああ!!」

あたしはまた悲鳴を上げる。
それに三橋くんはまたビクッとなった。


「・・・り、さん・・・、雷・・・、苦手・・・」

声を振り絞るようにそう言った三橋くんに、あたしは雷がおさまったのを見計らって返す。

「・・・そうなの、雷だけは本当にダメで・・・きゃぁぁああ!!」

しかし、会話の途中にも容赦なく雷は落ちてくる。


もう本当に嫌だ。
あたしはもう一度目を閉じる。

ビクビクと震えながら、ひたすら堪える。

せっかく人がやってきたのに・・・
けど、その相手が三橋くんじゃあな・・・
きっと三橋くんも忘れ物を取りに来ただけだから、すぐ帰っちゃうんだろうな。





そう考えていると、両耳を塞いでいた右手と左手に冷たい感触。
ヒヤリとしたその感触に、思わず目を開けると、目の前に三橋くんがいた。

三橋くんは相変わらずおどおどとしていたけれども、今度はしっかりとあたしを見ている。

そして、ふにゃっとした力のない笑顔をあたしに向けた。
あたしは、そんな三橋くんの顔に、思わずドキリとしてしまう。



「怖く・・・ない、よっ」

そう言って、三橋くんはあたしの手をぎゅっと握った。


「・・・おさまるまで、俺が、いる、から・・・」


ニコリと笑った三橋くんに、あたしは目を見開く。



あれ・・・
あれれ・・・?

三橋くんって、こんな人だった・・・?

ゴツゴツとしている手、そしてたくましく感じる存在感。
カァと顔が熱を持っていくのがわかる。
そんなあたしを見て、三橋くんはハッとした様子で、パッと手を離した。

「ご、ごめ・・・お、俺、調子、のった・・・」


オロオロとしている三橋くん。
ああ、いつもの三橋くんだ。
けれども、なんて頼もしく感じるのだろう。


「ち、ちがっ・・・ありがとう・・・」

あたしは離された三橋くんの手をとっさに追って、握り返す。
すると三橋くんは、またニッコリと笑った。

冷たかった三橋くんの手が、だんだんとあたたかくなる。






「・・・あ、あのね・・・、こうすると、もっと怖く、なくなる、よ」

三橋くんはそう言うと、あたしの手を優しく振りほどいて、
自由になった自身の手をあたしの背中に回す。


ぎゅ、と三橋くんがあたしを抱き締める。



「・・・み、三橋く・・・!」

ドキドキを誤魔化すように三橋くんに声を掛ける。
けれども、三橋くんはこの体勢に全然気にしていないようだった。



三橋くんは普段はオロオロとしていて、何となく小さなイメージがあった。
けれども、今、こうしてあたしを抱き締めている三橋くんは、
思っていたよりもずっとがっしりとしている。



(・・・やっぱり、男の子、なんだなぁ・・・)


そんな、当たり前のことを考えた。



すぐ近くで聴こえる三橋くんの落ち着いた心音に、
あたしは、今まで張り詰めていた緊張が、少しずつ解けていくのを感じた。







三橋くんは、あたしの雷に対する恐怖心を失くそうと、
得意じゃないだろうに、必死にあたしに話しかけてくれた。

その話題のほとんどは野球部のことで、拙いながらも一生懸命に話してくれた。
三橋くんはとっても口下手で、その内容がおもしろかったとは決して言えなかったけれど、
三橋くんのその気遣いに、あたしの心はとてもとてもあたたかくなる。











雷が止んだのは、それから1時間近く後だった。
三橋くんは、「送っていく、よ!」と元気な声でそう言ったから、
あたしは彼のお言葉に甘えて家まで送ってもらった。


新しい三橋くんが、たくさん見れた。
それが、何となく嬉しかった。







「送ってくれて、ありがとう」

あたしの家の前まで送ってもらうと、帰り際にあたしはお礼を言う。
すると、三橋くんは首をブンブンと横に振って、

「気にしなくて、いい、よ」

と、また笑った。

「三橋くんは優しいね」

あたしもつられて笑顔になりながらそう言うと、
三橋くんは、今度は真面目な顔つきになった。
どうしたのかと思い、首を傾げると、三橋くんは、あたしを真っ直ぐに見つめたまま、

「・・・優しく、ないよ」

と言った。
謙遜しているのかと思い、「そんなことないよ」と返すと、
三橋くんは「チガウっ!」と先ほどよりも少しだけ声色を強めた。




「お、俺、さん、だからっ・・・」


「?あたしだから・・・?」


三橋くんが何が言いたいのかわからないあたしは、ただ首を傾げるだけ。







「・・・俺、さんだからっ、優しくした、んだっ」





三橋くんはそれだけ言うと、くるりと回れ右をしてそのまま走り出した。
最後に見えた三橋くんの顔は、真っ赤だった。
けれども、何て言うか・・・かっこよかった。



残されたあたしは、三橋くんに負けないぐらい顔を真っ赤にしたまま、
しばらくそこから動けなかった。






今日は確か、とてもついていなかったはず。
けれども、なんだろう。

この、今日あった悪いこと全てが、このための反動だったのかもしれない。



















07/09/18
コンセプトは、カッコイイ三橋!!