桜の花びらが舞い落ちる卒業式。
今日はあたしの中学生活の集大成だ。

今日しかチャンスがない。






















             























「どうしたの、

卒業式終了後、友達に頼んで呼び出してもらったのは栄口勇人くん。
中学では2年間同じクラスで、あたしの好きな人だ。

栄口くんの学ランのボタンは、すでにいくつかなくなっていた。

やっぱり栄口くんは人気があるんだな、
なんて思いながらいつものように優しい笑顔を見つめる。



そして、その瞳と視線が合うと、あたしは自分が今から言おうとしていることを思い出し、
緊張がますます高まってしまった。

その緊張をどうにかしようと視線を地面に落とす。



けれども震える身体。
言葉が上手く出てこない。




「あ・・・あたしっ・・・」

やっとしぼり出た声は、蚊のなくような小さな声。
手に持っていた卒業証書の入った鰐皮の筒をこれでもかというくらい力をこめて握る。
春になったばかりだというのに、手の中は汗で湿っていた。









「・・・栄口くんのことが好きです」





・・・言った。
ありえないほど声が震えていたけど。

言えた。


あたしは恐る恐る視線を前へ戻す。


見えたのは、栄口くんの困ったような笑顔。

(ああ、ダメだ。これはフラれる)








「・・・えっと・・・」


栄口くんが口を開く。

何と言うのか想像が出来たけれど、あたしは目を逸らさずに次を待った。
栄口くんがどれだけ誠実な人なのかを知っているから。
誠心誠意答えようとしている彼に、あたしも応えなくてはならないと思った。



「・・・の気持ちは嬉しいんだけど・・・」




「・・・・・・・・・」








「俺、の気持ちには応えられない」






言われるっていうのはわかっていたのに。
「ごめん」と、栄口くんが小さな声で言った瞬間、ぶわっと涙があふれてきた。

わかっていたじゃない。
うん、わかってた。

・・・・・・わかっていたけど、やっぱりツライ。



「・・・っ、ごめ、・・・っ」


溢れる涙は止められなくて、あたしは言葉を詰まらせながら、なんとかそう言った。
もう栄口くんを見ることは出来なくて、あたしはうつむき、
3年間着込んだ制服の袖で、止まらない涙を拭う。


「・・・なんでが謝るの」

聞こえてきた栄口くんの声で、表情が安易に想像できた。


ああ。あたしは最後まで彼を困らせてばかりだ。





「うん、・・・あ、りがと、っ・・・」

あたしが言うと、栄口くんは「どういたしまして」と、とても小さな声で言った。







どんな表情をしているのかは、今度は想像できなかった。



































あれから、約3ヵ月。
あたしは栄口くんとは別の高校へ進学し、毎日をそれなりに楽しく過ごしていた。




二時間目の時間、あたしは黒板の板書をノートに書き写しながら、
ふと右端に書かれている今日の日付に視線がいった。

(・・・あ・・・・・・)


6月8日。
栄口くんの誕生日だ。


実は去年、あたしは栄口くんからおめでとうのメールを貰ったのに
栄口くんの誕生日をすっかり忘れていたと言う前科がある。
来年は絶対に忘れないでメールするよ、と言ったのは、振られるずっと前のことだった。

どうしよう。
・・・送ったほうがいいのかな。
・・・女々しいだろうか。

色々な思いがあたしの頭の中を交差していく。


結局この時間の授業は途中から上の空で、
あたしはひたすら送るか送らないかの自問自答を繰り返していた。





そして、休み時間。
あたしは結局メールを打っていた。

(・・・大丈夫、ただお祝いするだけだもん。友達ならするよね)

自分に何度もそう言い聞かせながら、メールを打つ。


件名に、『誕生日おめでとう』と入れ、
ただ友達に送るようなメールと同じような内容で、送った。

携帯のディスプレイに『送信完了しました』という表示がされ、あたしは携帯を閉じる。
次の授業は体育だ。早く着替えなきゃ。

あたしは携帯を制服のポケットに突っ込むと、体操服を持って友達の傍へ駆け寄った。




が学校でメール作ってるのって珍しいね」

更衣室へ向かう途中に、友達が言った。

「友達の誕生日だったの思い出してさ。
 思い出した時に送っておかないと忘れちゃうじゃん?」

あたしが苦笑しながら言うと、友達は「なるほど、らしい」と頷いた。










返事は来ないだろうなと思っていたのと、
移動と着替えで携帯を見る暇もなく、昼休みとなった。

仲良しの子達の方へお弁当箱を持って行くと、そこらへんにある机を借りて四角形を作る。
そして、またイスも借りて、みんなでキャッキャ言いながらお弁当を広げた。

誰々のお弁当が美味しそうだとか、交換しようだとか騒ぐのはいつものこと。
あたしも友達のから揚げに狙いを定めると、
「これちょーだい!」と箸で刺し、問答無用に口の中へと放りこんだ。


そのとき、ふと制服のポケットから光が漏れていることに気づいた。
あ、と思い、携帯を取り出すと、着信だったようで丁度切られてしまった。
不思議に思いながら箸を口にくわえたまま、携帯を開く。
着信履歴のボダンをポチッと押す。


「・・・・・・え・・・」

あたしは思わず声を出してしまった。
口にくわえていた箸が、机に落ち、その勢いのまま床へと落下した。
カシャン、と小さな音がする。


「あ、、箸!」

友達の呼び声に、あたしはハッとして箸を拾い上げた。

「うわー、ごめん!あたし洗ってくるわ」

携帯を片手に持ったまま、あたしは教室を飛び出すように出ていく。





教室はざわざわとしてうるさかったけれど、一歩その外へ出ると驚くほど静かだった。
あたしは水屋の前を通過すると、そのまま人気のない場所まで移動する。

(・・・掛け直した方が・・・いいよね・・・、)

小刻みに震える手で、あたしは携帯のディスプレイをじっと見つめる。



着信履歴いっっぱいにあったのは、『栄口勇人』という名前。
掛けなおした方がいいと思いながらも、感じたのは、
「なんで?」「どうして?」という疑問ばかり。

わざわざ電話なんてしなくてもいいのに。
メールでいいじゃない。



考えていると、また携帯が光る。
ディスプレイに表示された名前は、先ほどと同じ『栄口勇人』だった。


あたしは、ドキドキしながら一呼吸置くと、震える手で通話ボタンを押した。








「・・・も、もしもし・・・」

ああ声までも震えてしまった。


『あ、!?』

携帯越しに聴こえてくる声に、あたしは胸が締め付けられた。
もう吹っ切れたと思っていた想いが、また込み上げてくる感じがした。

『よかったー!全然繋がらないんだもん。もう出てもらえないのかと思った』

電話越しに、栄口くんが苦笑しているのが伝わってきた。

「突然どうしたの・・・?」

あたしはなるべくいつも通り、平静を装って言った。

『・・・あー・・・えっと・・・メール、ありがとな』

栄口くんは、少し何か考えるような素振りをした後、そう言った。

「や、別に友達におめでとメール送るのなんて普通だよ!」

「友達」であるところをほんの少しだけ強め、
あたしなりに栄口くんに気を使わせないようにしようとがんばった。


『そっか。そだよな・・・。・・・あのさ、・・・』

「うん?」

『・・・や、なんでもない。メール嬉しかったよ。それじゃあ』

「え?あ、うん」


何かを言いたそうにしたまま、栄口くんは電話を切った。
けれども、彼が何を言いたかったなんてあたしにわかるはずもなく、
あたしは箸を洗って、教室へと戻った。












07/06/08
栄口くんハピバ!!
張り切りすぎて無駄に長くなりました・・・!
まあいっつもなんだかんだだらだらなんですが^^;