「ねぇねぇ、校門のところで、他校生が待ってるよ!」 「うっわ!誰の彼氏なんだろ?」 そんな会話が聞こえてきたのは、 放課後、生物室の掃除を終えて教室に戻ってきた時だった。 あたしも野次馬のように窓からその人の姿を見る。 (・・・!さ、栄口くん・・・!?) 窓から見えた人物は、ほんの少し前、電話をした栄口勇人くんだった。 あ。これでなんかピンと来たかもしれない。 栄口くんがさっき『あのさ、』といった続きは、うちの学校の子の彼女が出来たことだ。 そうに決まってる。 言おうとして、やっぱりあたしに気を遣ってくれたんだ。 あたしは、自分でそこまで考えると、急に切なくなった。 栄口くんは、あたしじゃない誰かを好きになって、付き合って・・・ 抱き合ったり、キスしたり、・・・その人にしか見せないような笑顔で笑うんだ。 あたしが見たかった。 振られて、なんて未練がましいんだろう。 けど、あたしはそれだけ栄口くんのことが好きで好きで仕方がなかったんだ。 あたしは自分の席に着くと、机に突っ伏したまま声を出さずに泣いた。 鼻水や涙で、あたしの制服の両腕の部分はずぶぬれだった。 だけど、そんなの全然気にならない。 あたしはただ栄口くんが早くこの学校からいなくなることを願っていた。 ・・・だって、彼と校門で会ってしまったら、 涙が止まっていたとしてもまた泣いてしまうに決まってる。 机に突っ伏したままだから、よくわからないけれど、 一人、また一人、教室から帰路についていったようだ。 騒がしかった教室に、静寂が訪れた。 ブーブー。 静寂を破ったのは、あたしの携帯電話だった。 その日の授業が終わったら携帯をバイブ設定にするのがあたしの癖だった。 あたしは、そしてそのバイブが鳴ったとき、初めてまた顔を上げる。 窓の方へ視線を走らせると、もう辺りは暗くなっていた。 涙もすっかり乾いて、あたしの心もだいぶ落ち着きを取り戻している。 さすがにもう栄口くんは帰ったに違いない。 あたしは、そう思いながら、携帯のディスプレイに視線を落とす。 「・・・・・・なん、で・・・?」 表示された名前に、あたしは目を見開いた。動揺が再び広がる。 だって、今、あたしの携帯のディスプレイに表示されているのは、栄口くんだったから。 どうして、あたしに電話を・・・? 今頃は彼女さんと楽しく誕生日を過ごしてるんじゃないの・・・?? あたしは不思議に思いながらも、怖くて、出るのをためらう。 留守電設定をしていなかったあたしの携帯は、止まることなく震え続けている。 何コール目か、わからない。 あたしはやっと決心すると、通話ボタンを押した。 「・・・も、」 『!?もしかしてもう帰っちゃった!?』 もしもし、と言う前に、早口でそう言った栄口くん。かなり焦っている口調だ。 「・・・ま、まだ、学校、だけど・・・」 『っはー!良かった。部活か何か??』 「う、ん・・・まあ・・・」 部活なんて嘘だし、委員会にも入ってないけど。 あなたに会うのが辛くて、ひとりで泣いてましたなんて言えるはずがない。 『・・・・・・あのさ、今、の学校の校門にいるんだ』 『今からちょっと会えないかな?』という栄口くんの声に、 あたしはバッと机から飛び起き、窓に張り付くようにしながら、校門の方を見た。 栄口くんが、いた。 なんで、どうして?? あれからもう4時間はたってるはずだよ。 どうしてまだそこにいるの? 「な、何やってるの、栄口くん!!」 『・・・え・・・?』 「もう学校そんなに人いないよ!?彼女さんきっと帰っちゃってるよ!」 『・・・え、か、彼女・・・?』 あたしが大きな声でそう言うと、栄口くんはずいぶん驚いているようだった。 窓の向こうの彼が驚きのあまり小さく動いているのが見える。 「きっとすれ違っちゃったんだよ!!」 どうしようだの、あーだこーだあたしが騒いでいると、栄口くんの笑い声がした。 それから、 『違うよ。に用事があったの』 と言った。 「・・・あ、あたし・・・?」 思いもよらないことに、あたしが間抜けな声を出すと、 栄口くんは優しい口調で『終わるまで待ってるから、一緒に帰ろう』と言った。 あたしは、彼がどれくらい前からそこに居るのかを知っていたから 「すぐいく!」と言って電話を切ると、すごい勢いで教室を後にした。 栄口くんに会ったら、何て言おう、とか、 どんな顔すればいいんだろうとか考える暇もなかった。 「さ、栄口くん!」 外は当然のことながら夜で、その風はほんの少し冷たさが残っている。 「あ、ホントにすぐだね」 栄口くんは、ニコリと笑った。 その笑顔が懐かしくて、愛しくて、あたしは胸がきゅうと締め付けられる。 「・・・あたしに、何の用??」 あたしは呼吸を整えると、そう言った。 すると栄口くんは苦笑しながら「うん」と頷く。 「・・・あ、あのさ・・・高橋、元気かわかる?」 栄口くんが「高橋」と名を発した時、あたしはドキリとした。 高橋くんっていうのは栄口くんの友達で、あたしもそこそこ仲が良かった。 ・・・そして、あたしはその高橋くんに、卒業式の前日に告白されたのだった。 けれども、なんでいきなり高橋くん・・・? 「・・・さ、あ・・・?全然連絡とってないからわからないよ」 もし栄口くんがあたしが高橋くんに告白されたことを知っていたとしても、 それが何かに繋がるはずなんてなくて、あたしは別に気にせずに答えた。 ただ、どうして栄口くんがいきなりその話を振ってきたのか意図がつかめない。 「・・・そっか。じゃないのか」 栄口くんがホッと息をつく。 「何が・・・?」 あたしはわけがわからずに首を傾げると、 「・・・今日さ、高橋からもメールが来て、そこで彼女出来たって言ってたから・・・」 なんじゃないかと思った、と言った栄口くんの声は、消え入りそうだった。 その様子からすると、やっぱり高橋くんがあたしを好きだったことを知っていたようだ。 「・・・ち、違うよ!あたし、彼氏なんていないもん・・・!」 あたしは焦りながら栄口くんにそう言った。 すると、栄口くんは一度だけ大きく深呼吸をして、視線をあたしに真っ直ぐよこした。 「・・・あのさ、」 真っ直ぐな栄口くんの瞳は、あの日と全く同じだった。 「・・・ひどい奴だって思うかも知んないけど、聞いて欲しいんだ・・・」 あたしは、彼から視線を逸らさずに、わずかに頷く。 「・・・俺、・・・ずっと前からが好きだ」 「・・・え・・・?」 「今も、スゲェ好き」 栄口くんの口から発せられた言葉に、あたしはあっけに取られ、ポカンとしてしまった。 「な、なに・・・言ってるの・・・?」 ずっと前って、いつから・・・? だってあなたは、あたしを振ったじゃない? 「・・・今更遅いってわかってる。けど、俺、やっぱりのこと諦められなくて・・・」 栄口くんの必死な表情から、それが冗談じゃないってことはわかった。 けれど、それなら、どうして・・・? あたしが口に出さなくても、栄口くんはあたしが何を知りたいのかわかっているようで、 ゆっくりと、けれども視線はあたしから全くはずさないで話しはじめた。 栄口くんは実はあたしのことが好きだったそうだ。 けれどもある日、高橋くんに、あたしとの仲を協力してくれと言われ、了承した。 ・・・だから、卒業式の日、あたしの告白を断ったのだと言う。 高橋くんを、裏切られなかった。 ・・・栄口くんらしいといえば、らしい。 けれど・・・・・・ 「・・・な、にそれ・・・」 そう簡単に納得できない。 あたしがどれだけ勇気を振り絞ったと思っているの。 「・・・自分勝手だって言うのはわかってる。俺、最低だ・・・」 「・・・ほんとだよ・・・」 あたしは掠れた声でそう言うと、栄口くんは辛そうに笑う。 「もうと前みたいに話せなくなったんだって思うと、辛くて仕方がなかった。 ・・・だから、メールが来た時、死ぬほど嬉しかったんだ」 あたしは、今にも泣きそうなのを、ぐっとこらえる。 「・・・俺、のことすごい好きだったんだって気付いて・・・それで・・・」 栄口くんにしては珍しく混乱しているようで、 「で、あれ・・・何言いたかったんだっけ?」と、慌てふためいていた。 栄口くんは、気を取り直して、深呼吸をすると、あたしを真っ直ぐ見る。 「・・・もう遅いのはわかってるけど・・・、のことめちゃくちゃ傷つけて、最低だけど・・・」 栄口くんの、こんなに脆そうな表情は、初めて見る。 「俺、が好きだ」 あたしはついに、泣き出してしまった。 「・・・・っ、な、んで今更、いう、のっ・・・」 あたしは両手で涙をのごいながら声を絞り出した。 「・・・ごめん、自分の気持ちばっかり押し付けて・・・」 「あたし、あの日、っとに、辛くてっ・・・」 「・・・うん。・・・ごめん・・・」 栄口くんは、何度も何度も「ごめん」と繰り返す。 「・・・けどっ、・・・まだ忘れられないくらい、好き、・・・」 あたしが言うと、栄口くんは「・・・え・・・」と、かなり間抜けな声を出した。 その声に、あたしはほんの少しだけ顔を上げて栄口くんを見る。 ・・・失礼かもしれないけど、 その表情は「マヌケ」と言う言葉が一番合うほど、あっけらかんとしていた。 あたしは気付かれないように小さく笑ってしまった。 肩の震えで、あたしがかなり泣いていると思ったらしく、 栄口くんは「あ、わ、・・・!?え、あ、・・・」と、あたふたしている。 そんな栄口くんの様子に、あたしは顔を上げると、 「栄口くんもそんなにあわてるんだね」と、笑いながら言った。 「・・・・・・っ」 栄口くんは、一瞬目を見開いた後、あたしをきゅっと抱き締めた。 「・・・鼻水、ついちゃうよ・・・」 あたしが言うと、「いいよ」と、優しい声が返ってきて、あたしは彼の肩に顔を埋める。 「・・・、ほんとごめん・・・」 しばらく無言でいたら、耳元で栄口くんがそう言った。 あたしは顔を上げる。 「・・・なん、で、栄口くんがあやまる、の・・・」 そして、卒業式に彼が言った言葉をそのまま返した。 「・・・うん、・・・ありがとう・・・」 栄口くんも、あの時あたしが言ったのと、同じように答える。 違うのは、あたしが彼の腕の中にいることと、お互いの気持ちが通じ合ったということ。 「栄口くん、誕生日おめでとう」 あたしがそう言うと、「ありがとう」と微笑んで、 「どの誕生日プレゼントより嬉しい」と、さっきよりも力いっぱいあたしを抱き締めた。 07/06/08 栄口くんハピバ!!^^ ハッピーエンドが大好きです〜! しっかし、毎度題名が思い浮かびません。 ネーミングセンス無っ!! |