入学式を翌日に控えた夜、あたしは一枚のドアを前に、四度目の深呼吸をする。 青春の背番号!No.02 このドアの向こう側に居るのは、花井梓。くん。 今日からお世話になっている、花井家の長男にして、 明日からはあたしと同じ高校に通うことになっている。 夕食の後から全然話が出来ていない。 明日から同じ学校に通う同級生として、この気まずいままじゃ嫌だった。 あたしは意を決して、そのドアをノックする。 「・・・、です・・・」 ドア越しにそう言うと、梓くんは「えっ!?」と驚いた声を一瞬出した。 そして、少しの間、ガサガサと音がしたかと思うと、ドアが開かれる。 「・・・な、何・・・」 ひょっこりと梓くんが顔を出す。 「・・・あのさ、明日から同じ学校に通うわけだし、 ・・・あの雰囲気のままじゃ嫌だなーって、思って・・・」 足元に視線を走らせながらそう言うと、 顔を覗かせるようにしていた梓くんが彼の部屋の中を指差した。 「・・・とりあえず、入る?」 と言った梓くんに、あたしは頷いて後を付いて行った。 梓くんの部屋は綺麗に片付いていて、物がないという印象を受けた。 ベッドの前にあるテーブル越しにあたしは梓くんは向き合うように座る。 「・・・態度が悪かったのは、謝る」 続いた沈黙をはじめに破ったのは、梓くんの方だった。 「・・・お前、これから赤の他人の家で過ごすのに、不安にさせちまったと思う」 「・・・梓くん・・・」 「・・・俺も、一旦は了承したんだ。悪かった」 頭を下げる梓くん。 「や、いいよ!そんなに謝らなくても」 あたしは手をぶんぶんと振りながらそう言った。 別に梓くんに謝ってもらいたかったとかそんなのは全然なくて、 ただもう少し仲良くなりたいなーってそれだけだったから。 という旨を梓くんに伝えると、「そっか」と、ちょっと顔を赤くしながら笑った。 その顔につられて、あたしの顔もほんのりと熱を持っていた。 「あのさ、・・・な、何て呼べばいい・・・?」 梓くんは、坊主頭をボリボリとかくと、視線を泳がせながらそう言ってきた。 「・・・え・・・?」 「や、だって・・・これから一緒に暮らすのに『』って、 ・・・ちょっと他人行儀じゃねぇかなって・・・かといって、名前を呼ぶのも・・・」 ゴニョゴニョとそう言っている梓くんの顔はさっきよりも赤くて、 あたしはちょっとだけ吹きだしてしまった。 「・・・お、俺は真面目に・・・!」 梓くんはちょっとムッとした様子だ。 あたしはそれをさえぎり、 「・・・、でいいよ」 と、笑って見せた。 「・・・こ、・・・」 「うん」 カァと赤くなる梓くん。 ゴホンと咳払いをすると、あたしを見た。 ・・・初めてまともに目が合ったかもしれない。 「・・・遅くなっちまったけど・・・よろしくな、・・・」 すっと差し出された手を、取る。 「うん、よろしくね、梓くん」 「・・・あー・・・」 「・・・・・・梓くん・・・?」 手を握ったまま、梓くんは目を逸らし、また咳払いをした。 「俺も、梓でいい」 「・・・了解。よろしく、梓!」 もっと怖い人かと思っていたけど、全然そんなことなくて、 あたしは内心かなりホッとした。 「うん、じゃあ寝よう」 「そうだな」 「初日から遅刻なんて出来ないしね」 「おやすみ」と、あたしが梓の部屋のドアを閉めようとした時、 梓がまた「あ」と、あたしを呼び止めた。 「ん?」 「・・・学校で梓って呼ぶのは、やめてくれ」 「・・・?なんで・・・?」 「・・・だって、女みてぇな名前じゃん」 名前を気にしてるのか、と思うとちょっと可愛くて、あたしはまた吹きだしてしまった。 顔を赤くする梓も、長身に似合わず可愛いと思ってしまう。 「梓って、きっと『しなやかで丈夫な子になるように』って感じかな・・・ ・・・素敵な名前だと思うんだけどなぁ」 「・・・・・・!」 あたしがそう言うと、梓は一瞬だけ大きく目を見開いた。 けれども、すぐにハッとした様子で 「いいから!!」 と、念を押してきた。 「了解ー・・・」 あたしはひらひらと手を振ると、 「おやすみー」と言いながらドアを閉めた。 「お、おやすみ!」 と同時に聞こえてきた梓のちょっと裏返った声。 あたしは、そんな梓の声に、知らないうちに頬が緩んでいた。 うん、大丈夫。 花井家は、優しそうで素敵な人たちばっかり。 さすが、お父さんとお母さんも褒めちぎっていただけはある。 明日はいよいよ入学式だ。 梓と和解。 あ、あれ・・・。 もっと梓とは対立させていこうと思っていたはずが・・・ こんなに早く和解しちゃいました。(笑) いやー、世の中って不思議ですね^^ |