合宿の一日目が終わろうとしている。
この一日であたしはだいぶ野球部のメンバーとも打ち解けられたと思う。

西浦の野球部は、素直でまっすぐな子たちばっかりだからかな。





けれども、・・・阿部とは、朝の挨拶以来、まともに会話をしてない。

阿部と気まずいのを察してくれたようで、梓がたまに気を遣ってくれて、
それがとてもあったかくて、嬉しかったんだけど、
・・・ちょっと悪いなぁって思うのも事実で。






















青春の背番号!No.10

























お風呂上りで、気持ちも体もなんだかスッキリ。
今日は天気が良かったから、きっと夜空も綺麗なんだろうな。
山の方だから、星もいっぱい見えるかも!

あたしは寝る前に少しだけ天体観測でもしようかなーなんて思って、一人で外に出た。






「やっぱり!きれー・・・」


外に出ると、予想通り星がきれいだった。
宝石のように輝いている、なんてありきたりの言葉かもしれないけれど、
それが一番ぴったりなような気がする。


あたしはもう少し奥の方に切り株があったことを思い出し、
そこで座りながら星の観察でもしようと、歩き出す。

ふと、お父さんとお母さんが元気かなぁなんて考えてみた。
週一回の割合で、向こうから連絡が来るんだけど、
電話の声を聞く限り、二人とも元気そうだから、きっとこれは余計な心配なんだろうな。


一人で考えて、苦笑する。








?」

名前を呼ばれて、ハッと視線を前にする。


「・・・・・・あ、阿部・・・」

そこにいた人物は、出来るだけ関わりたくないと願っていた、阿部隆也。
腰掛けようと考えていた切り株に座っていた。
あたしは思わず逃げ腰になってしまう。

「星、きれいだね!阿部も見に来たの?
 あ、あたしそろそろ戻るから、ゆっくり見ていけばいいよ」


一気にそこまで言うと、あたしは宿舎に戻ろうとする。
が、阿部に腕をつかまれた。さすが現役野球部。



・・・逃げるのに失敗したあたしは、冷や汗すら流している。


「・・・あたしに、何か用・・・?」

どうにかこうにか声を絞り出してそう言った。

「何、避けてんだよ」

阿部の声には、かすかに怒りも含まれている。

「べ、別に、避けてなんか・・・」

「・・・ハァ。じゃあまずこっち向けよ」

あたしはゆっくりと振り返る。
久しぶりだ。こんなに近くで阿部の顔を眺めたのは。

心臓がドキドキと鳴っている。

「腕、離して・・・」

「離したら逃げるだろ」

ウッと言葉を詰まらせるあたし。

「・・・だから、離さない」

阿部の射抜くような視線に、あたしはまたたじろぐ。




「・・・お前、俺がどんな気持ちでいたかわかるか」


こんなにつらそうな阿部の顔は、初めて見たかもしれない。
あたしは胸がズキリと痛んだ。





ダメだ、泣くな。
あたしが泣いたら、なんてずるいヤツなんだ。
泣きたいのはあたしなんかじゃなくて、阿部の方だ。


「・・・・・・何、泣きそうなんだよ」

苦笑する阿部に、あたしは糸が切れたように自分の意思とは裏腹に涙が流れる。



ああ最悪。
思えば、いつも阿部には迷惑ばっかりかけていた。



阿部はあたしの頭をやさしく撫で、それからあたしが泣き止むまでずっと傍にいてくれた。






ああ、あたしは阿部のこういうところが好きだったんだ。
阿部のことが大好きで、とても大切だと感じていたんだ。



・・・・・・けど、今も同じ気持ちかと聞かれれば、それは少し違う。



好き。
それはきっと、大事な友達として。

それ以上でも、それ以下でもない。




好きだった時のドキドキとは、もう違う。
そして、そのドキドキがどこにあるのか。




あたしは、たぶんわかってる。


あたしを撫でていてくれたてのひらに、あたしは心のどこかで違和感を覚えていた。




















「・・・阿部、西浦に来てるなんて思わなかった」


落ち着きを取り戻したあたしは、阿部が少し前まで座っていた切り株に腰を下ろしている。
隣には阿部が立っている。


「・・・・・・そうか?」

「そうだよ。だって西浦って硬式の野球部なんてなかったじゃない」

・・・それもあたしが西浦を選んだ理由のひとつなのに、というのは言葉に出さない。

「・・・まあ今年新設されるのは知ってたし・・・」

阿部は、言葉を濁らせながらそう言った。
あたしはそれ以上突っ込まずに、空を見上げる。
相変わらず、星たちがきれいに輝いている。


「・・・とはうまくやってる?」

何となく、出た言葉だった。
あたしはそれをもう過去として思い出に出来ているんだという証拠なのかもしれない。











「・・・・・・もうとっくに別れた・・・」



けれども、返ってきた返事は、予想とは違うもので、

「・・・あ、そう・・・」

どうして、とは聞けなかった。
聞くのが怖かった。



けれども、あたしが聞かなくても、阿部は続けた。
阿部の視線が、あたしに突き刺さる。










「・・・俺、やっぱりのことが好きだから」







あたしは、何故かまた涙が出そうになってしまった。

あたしが困ったような顔をしていると思ったらしく、阿部は苦笑する。
その顔に、あたしの心臓はきゅうと締め付けられるようだった。


「・・・考えておいて」

阿部はそう言うと、宿舎の中へと戻っていく。






(・・・阿部、)




あたしはその背中を複雑な気持ちで見送った。















07/07/12
いきなり急展開ー!!(笑)