「あれー?千代は?」


合宿の仕上げとして組まれた練習試合をするべく、
あたしたちは群馬にある三星学園までやってきた。


きれいなマウンドに、感嘆の声を上げる西浦高校野球部の面々。
あたしはちょっとトイレに寄ってからやってきたので
遅れながらも同じくその設備にぽかんとしていた。


が、ふと気付くと千代の姿がない。





















青春の背番号!No.16



























あたしが尋ねると、答えてくれたのは、泉君だった。

「篠岡なら向こうだぞ」

そう言って指をさしたのは、ちょっと離れたところにある小屋のようなもの。

「なんで・・・?」

と、首をかしげるのとほぼ同時に、田島君が泉君の首にがしっと腕をからませ、

「ウグイスジョウだってさ!」

と、元気よく答えた。

「あーそっか。・・・んじゃ、あたしも向こう行った方がいいのかな」

千代一人じゃ大変じゃないかなぁ・・・?
あたし、マネージャー業って何するのか分からないし・・・


「別にいいんじゃね?篠岡だけでも出来んだろ」

「そーだよ!はこっちいればいいって」

「えーでも・・・」



あたしがためらっていると、後ろから両肩をポンッとたたかれた。

「そもそもさんは善意でお手伝いしてくれたからね」

振り返れば、そこに居たのは百枝さん。
ニッコリとやさしい笑みを浮かべている。

「今日は試合観戦でも楽しんでちょうだい」

「百枝さんさんがそう言うなら・・・」

あたしは、百枝さんの笑顔に押され、ベンチに残り、試合を観戦することにした。
練習試合だけど、生の試合観戦は久しぶりだ。













あたしは野球部のみんなを奥のベンチから眺める。

ぼーっとしながら見ていたら、「よくねェよ」という阿部の大きな声にビックリした。


阿部が、投手のために動いてる。
シニア時代の傷跡から、投手が嫌いだった阿部が。


・・・あのころの阿部を見てるのは、辛かったな。
好きだったから、とにかくあたしに何か力になることはないかって・・・



あたしが軽い感動に浸りながら阿部を見ていると、
不意にこちらを見た阿部とバッチリと目が合う。
ドキッとしてあたしはすぐに視線をそらしてしまった。






視線の端で、阿部がこちらにやってくるのがわかる。


「・・・っつーわけだからさ、」

そして、上から降ってきた阿部の声は、思いの外、優しかった。
あたしは、ぱっと顔を上げる。



「応援、しっかりやれよ」

ニヤリ、と笑う阿部。
あたしも同じような顔で返事をする。

「言われなくても」

何となく、昔に戻ったような感じがした。
けれど、それもつかの間。

阿部の表情が、また真剣なものになる。










「・・・つーか、俺のこと、しっかり見てろよ」





そして、そんなセリフを言ってのけたのだ。

「・・・え・・・」

あたしは呆けるしかない。














「ぜってー惚れさせてやるからな」













そう言い残し、去っていった阿部を、あたしはただ呆然と見ていた。
阿部の言ったことを理解したのは、三橋くんが一球目を投げ終えた時で、
あたしはベンチの奥で一人、顔を赤くしていた。

(・・・あ、阿部のキャラじゃない・・・)













試合は着々と進んでいく。
手に汗握る展開に、あたしは食い入るように見ていた。

そして、あたしは皆の力になりたくてたまらなくて、
ベンチに戻ってきた皆にドリンクやタオルを配ったりしていた。

























試合は、私達西浦高校の勝利に終わった。
選手たちそれぞれに思うところはあったと思う。
けど、彼等の表情は晴れやかで、あたしも自然と頬が緩んでしまった。







帰り支度をしながら、梓の背中を見つけ、そっと駆け寄る。
梓はしゃがみこみ、荷物やらを詰め込んでいるようだ。


「おつかれさま!」

あたしは、ひょいと覗き込むように梓に声を掛けた。

「・・・あ、おぉ」

「なぁに、まだ三振引きずってるの?」

梓は最初の打席、田島くんに対抗して、そして見事に三振した。

「・・・カッコわりーじゃん・・・」

梓は、背を丸めながら、ハァと大きな溜め息をついた。


「・・・せっかく、お前がベンチの中から見ててくれたのによ・・・」

「何、梓はあたしにかっこいいところ見せようとしてくれたの?」

「なっ、べ、別に、そんなわけじゃねぇけど・・・!」

「ねぇけど?」

「・・・だー!もう、何でもねぇ!」

梓はそう言うと、顔をそらした。
けど、耳が赤いから、梓が今、どんな表情なのかわかってしまう。
その姿が、何だか可愛く思えてしまい、あたしはプッと吹き出してしまった。

・・・けど、大丈夫だよ。
試合中の梓は、すごくかっこよかった。




あたしは、目の前にある梓の頭に手を伸ばす。

「・・・何してんだよ・・・」

じょりじょりとした感触が、手のひらを覆う。


「・・・何って、そこに頭があるから・・・」

「・・・はあ?」

「あたしね、梓に頭なでてもらうと、すごい安心するんだ」

「・・・そうなのか」

「うん。梓は?」

「・・・なんか、変な感じだよな・・・」

「うん?」

「や、だって、俺、この身長だからあんま頭なでられるとかねぇし」

「確かに。梓を見下ろす、なんてのもなかなか貴重だよね」



話をしながらも、あたしは梓の頭をなで続けていた。
すると、いい加減ウザくなって来たかもしれない梓が顔を上げた。
さっきより、顔の赤みはないけれど、まだほんのり頬が色づいている。

帰ってきた言葉は、予想外なもので。


「・・・そろそろ、照れるんだけど」


そう言われて、思わずあたしも頬を赤らめてしまった。






08/07/06
今年も甲子園シーズンがやって来ましたね!
・・・・・・・・・・・・色々とすみませんorz