俺には好きな人が居る。



だけど、俺なんて勉強もダメ、運動もダメのダメツナで、
とてもじゃないけど彼女にこの気持ちを伝える勇気がない。

だって、振られるに決まってる。






















い っ せ い の ー で !























「沢田君、おはよ!」

校門の下駄箱で、靴を履き替えていると、ポン、と右肩を叩かれる。

それはほんの挨拶にしか過ぎない。
けれども、それだけで俺の心臓ははちきれちゃうんじゃないかと思うほど大きく波打つ。

「お、おはよ」

彼女ー・・・ちゃんは、ニッコリと笑うと、廊下の人ごみの中に消えていった。


俺、ちゃんと挨拶できてたかな?
顔とか赤くなってなかったかな??


ちょっと動きの早くなった心臓を押さえつけながら、俺も彼女の後姿をおう。
もちろん、ゆっくりと歩きながらだけどね。


















「・・・はあ・・・。何で俺ってばこうなんだろう・・・」



俺は両手に抱えた大きな荷物に、思わず大きな溜め息をついた。


『俺、昼休みにどうしても用事があるんだよ。頼むぜ、ダメツナ』

・・・こんな、用事なんて嘘に決まってる。
教科係なんだから、授業の準備ぐらい自分でしろよなー・・・。
そう思いながらも、俺は断ることが出来なかった。
そして、貴重な昼休みをつぶし、俺の教室からは一番遠いであろう社会科準備室に足を運んでいる。

教科担当の先生に、必要なものを聞けば、それが結構な量。

持つだけで精一杯だ。
けれども、往復している時間もどうやらなさそうだったから、
俺はそれを両手に抱え、廊下を歩き始める。

別棟にある教室へ行くには、階段をくだり、またのぼらなくてはならない。
・・・そのことを思うと、かなり憂鬱だ。

「・・・・・・はあ・・・」

もう一度、大きな溜め息をつくと、廊下の角を曲がる。



「うわっ!」

「わあっ!」


曲がったところで、丁度誰かとぶつかってしまったらしい。
思わず閉じてしまった目を開けると、俺は、その光景目を見開いた。

「…っ、ちゃん・・・!」

だって、俺のわずか10センチ前後のところに、ちゃんの顔がある・・・!
俺の上に、ちゃんが乗っかっていた。

(うわ!ち、近い・・・!)

けど、可愛い。なんて思ってしまった俺は、不謹慎かもしれない。

「あ、さ、沢田君・・・!ご、ごめん!重いよね・・・!」

ちゃんは、かぁあと顔を赤くさせながら、急いで俺の上からよけた。
赤くなった顔も可愛い。

(あ、俺、重症かも)




「それよりも、ちゃんは、何でこんなところに・・・?」

俺は豪快にぶちまけてしまった荷物を集めながら、尋ねた。
ちゃんは俺の荷物の集めてくれるのを手伝ってくれている。

「えーっと・・・私、屋上に居たから・・・」

その帰り、というちゃん。
なるほど。それなら納得。

「ありがと・・・」

と、言って荷物を受け取ろうとすると、
ちゃんは「うーん・・・」とほんの少しだけ考えると、その荷物をぎゅっと抱き締めた。

「…ちゃん?」

「ついでだから持って行く!大変そうだし!」

「え、あ、ありがと」

ちゃんは、ニッコリと笑った。そして、俺と並んで歩き出す。
まさかちゃんと並んで歩けるなんて・・・!
ひそかにジーンとしていると、ちゃんがクスッと笑った。

「え、あ、俺、なんか変な顔してた??」

視線を隣に移動させ、俺は顔を赤くしながら尋ねた。


「ううん。違うよ」

「・・・・・・?」

「・・・なんか、沢田君の隣歩いてるの、嬉しくってー・・・」

「・・・・・・え・・・?」


俺がまた目を見開くと、

「え、あ、あたし、今、何言った!?」

ちゃんは、あたふたと、顔を赤くさせた。

「あ、い、今の、何でもないから!気にしないでね!!」

「う、うん・・・・・・」

それから、ちょっと気まずい空気が流れたんだけど、
ちゃんがすぐに違う話題を振ってくれて、教室に着くころにはその気まずさも消えた。



その言葉の意味が俺はすごく気になったんだけれど・・・
また気まずくなってしまうのがイヤで、何も聞けずに終わった。



俺ってば、情けない・・・。









教室のドアをあけると、一瞬、あの騒がしいクラスがしんと静まり返った。
何事かと思ったんだけど、昼休みも終わりに近いため、先生と間違えたようだ。

「なんだー!ダメツナかよ!」

と、少しして、クラスの男子が言った。
ああ、またいつものことかな。
なんて思って、苦笑しながら教卓に運んできた荷物を置いた。

遅れてきた入ってきたちゃんから、荷物を受けとうろうと手を伸ばす。
けれども、ちゃんは、俺のその手を無視して、スタスタと教卓へ進んでいった。


そして、ドン!とわざと大きな音を立てて、その荷物を教卓の上に置く。











「沢田君は、全然ダメじゃないっ!!」







そうとだけ言うと、ちゃんは来たばかりの教室から飛び出していった。

残された俺と、クラスメイトたちは、一瞬ポカンとしてしまった。
けれども、俺はすぐにハッとすると、ちゃんの後を追う。


(なんで??どうして??)

ちゃんが、どうしてそんなに傷付いた顔をするの??






ハァハァと肩で息をしている彼女の元へたどり着いたのは、遅れること20秒前後。
真っ青な空が広がる、屋上。


「ッハァハァ・・・ちゃん・・・!」

俺の呼びかけに振り向いたちゃんは、顔を真っ赤にしていた。
目じりには涙を溜めている。

「・・・・・・ぁあ〜!もう、あたし、恥ずかしい・・・!」

そのまま、ちゃんはへなへなと屋上のコンクリートの上に座り込んだ。
俺は、すぐにちゃんの傍に駆け寄る。


「…ちゃん、いいんだよ。俺、別にダメツナなんて言われるのなれてるし」

「・・・だ、だって、沢田君は全然ダメじゃない・・・!」

「・・・・・・・・・ちゃん・・・」

「沢田君が優しいってこと、あたし知ってる」

ちゃんは、俺を見上げながら、そう言った。
そんなちゃんの顔を見ると、俺は自分の顔が真っ赤になっていくのがわかる。

「・・・今日だって、遠い準備室にまで行って・・・」

「・・・・・・・・・あ、あれは、断れなかっただけで・・・」

「けど。無視しようと思えば教科係のせいに出来るのに、そうしなかったでしょ?」

「・・・・・・ほめすぎだよ・・・!」

「・・・・・・全然。ほめたりないぐらいだよ」

顔を赤くしたまま、ちゃんはニコリと笑った。
そんなちゃんの姿がたまらなく愛おしくて、俺は思わずちゃんに手を伸ばしかけた。

「・・・あたしね、」

けれども、すぐに言葉を発したちゃんに、俺はハッとするとその手を引っ込めた。

「・・・沢田君のこと、見てたから・・・」

「・・・・・・え・・・?」

「て、あ!・・・あ、あたし、また変なこと口走って・・・!」

ハッとしてちゃんは視線を俺からずらし、ちょっと遠めのコンクリートをに移した。








妙な沈黙が流れる。



授業開始のチャイムなんて、もうとっくに鳴り終っていた。





なんだか、ちゃんがあまりにも愛おしく、
俺は無意識に片膝をつくとちゃんの顔を覗き込んだ。

ピク、とちゃんの肩が小さく動くと、視線を俺に合わせた。


「さ、沢田君・・・!?」

「・・・、ちゃん・・・」

「・・・・・・・・・あ、あの・・・どうしたの・・・?」

「・・・お、俺、バカだからさ・・・はっきり言ってくれないとよくわからないけど・・・」

俺は、視線を泳がせながらそこまで言うと、
一息ついて、今度はまっすぐにちゃんの瞳を見つめた。


「・・・俺、ちゃんが俺のことダメじゃないって言ってくれたの、すごく嬉しかった」

「ほんとのことだよ!!」

「あはは、ありがと」

俺が笑うと、ちゃんは、また顔を赤らめる。
俺は、やっぱり可愛いなーって思いながら、話を続けた。








伝えなきゃ、って思ったんだ。





俺なんて勉強もダメ、運動もダメのダメツナで、
いいところも、かっこいいところも、なんにもないけれど・・・


けれど、ちゃんは・・・そんな俺のことを見ていてくれた。






「・・・ちゃん、ありがとう。
 ・・・ちゃんが俺のこと、ちゃんと見てくれてるだけですごく嬉しい」


ちゃんは、俺のその言葉に、目を大きく見開いた。









「・・・お、俺さ、ちゃんに伝えたいことがあって・・・・・・」





わずかに震えるこぶしを、ぎゅっと握り締める。


「・・・俺、ちゃんが・・・」

「あ、さ、沢田君!ま、まって・・・!」

勇気を振り絞って言おうとした瞬間、ちゃんが両手で俺の口をふさいだ。



「・・・うううー!(苦しー!)」

「わ、ごめん!」

パッと手を離すと、ちゃんは、

「・・・・・・あの、あたしも、沢田君に言いたいことが・・・」

と言った。そして、

「・・・・・・だから、さ・・・いっせいのでで、一緒に言おう?」

と、続けた。






多分、ー・・・ううん。絶対わかってる。
ちゃんも俺も。


伝えたいことは一緒なんだって。




「沢田君、いくよ?」

「・・・うん」











「いっせいのーで!!」












青空に、俺とちゃんの声が響き渡る。

お互いに顔は真っ赤で。けれども、表情は穏やかで。





やさしい風が、吹き抜けた。












07/06/05
自分の中でもかなりほのぼの〜な感じに出来上がったと思います^^
やっぱりツナにはほのぼのがいいですね〜^^