あ。

今日もいる。










野 球 少 年 の 恋











東の空に闇が迫る。
もう太陽の光は、西に少し残るだけ。


そしてはじまる野球部最後の練習メニューは、ノック。
三本連続で取ることが出来れば、今日の練習は終了。





俺は腰を落とすと、両足を動かす。

「お願いします!!」

と、声を張り上げれば、コーチが俺に向かって打球を繰り出す。



俺は落ち着いて飛んできた打球をさばいた。
今日も三本きっちりで終了。



コーチは「今日こそはお前が取れないような打球のつもりだったんだがな」と苦笑した。

俺が「ははっ、まだまだッスね」と冗談交じりに言えば、
「山本!テメェ!!」と、先輩がじゃれてくる。





そうやって、笑い合いながら練習が終わって、チームメイトたちとだらだらと家路に着く。










それが、俺の日常だった。










今日も同じで、帰り支度をしていたが・・・


「・・・げ。」

ガサゴソとカバンの中をあされば、弁当箱がないことに気づく。
仕事柄なのか、弁当箱を忘れると親父が「臭う」だの「カビが生える」だのうるさい。

俺は溜め息をつくと、チームメイトに

「わりぃ、忘れもんしたから教室戻るわ」

と、声を掛けた。

チームメイトの反応は色々だったが、俺は苦笑して

「先行っててかまわねぇから」

と、付け足すと、教室へ向かった。







野球部の部室は校舎とは別のところにある。

だから俺はこんな時間に校舎の中に入るのは初めてだった。






いつもと違う雰囲気の校内に、俺はちょっとだけドキドキしながら、教室へ向かった。

すると、俺のクラスが近づくにつれ、そこから光が漏れていることに気づいた。


・・・こんな時間まで残ってるヤツとかいるんだな。





俺は教室の扉を開けた。

そこに居たのは、まあ教室なんだから当たり前だけど同じクラスのヤツ。
名前は確か、・・・

おとなしめのヤツで、入学してからもう4ヶ月ぐらいたつがいまだに話をしたことがない。


ガラッと扉を開ける音とか俺の足音とかしているはずなのに、
はまるで気づいちゃ居ない様子だった。


彼女の真剣な視線の先にあるのは、一冊の本。






「・・・?」


弁当箱を机の中から見つけ出して、それでもまだ気付かないに俺は声を掛けた。

「・・・・・・・・・・・・」


返事は無し。

たいした集中力なのか、それともただ俺を無視しているだけなのか。



今度はの席に近づくと、彼女の肩をぽんと叩いた。


「うわっ!!」

ビクリと、の肩が動く。
俺の方を見ると、胸をなでおろすと、「なんだ、山本君かー」と、微笑んだ。


「今ね、ホラー小説読んでて・・・丁度心臓を付きぬかれたところだったんだ!」

どんな本だか全く想像できないその説明。
けど、本当によっぽど集中していたんだと思うと、面白い本なのかと思えてくる。

「・・・ってか・・・、うわっ、こんな時間だ!またやっちゃった・・・」

「また?」

「うん・・・あたし、本読み出すと止まらなくって・・・」

苦笑する
そんな彼女の顔に俺は一瞬何故だかドキリとした。


「・・・山本君は?こんな時間に学校居るなんて珍しいね?」

「ん?ああ。俺は忘れもん」

そう言うと、俺は空になってる弁当箱をの前に持ち上げた。

「そっか・・・どれ。あたしも帰るかなー」

両手を天井へ伸ばして「んー」と伸びをすると、
は机の隣にかけてあるカバンを手にとった。




「あ、もう遅いし、俺、送っていくぜ?」

とっさにそんなことを行った自分に、俺は少し驚いた。

「え?ほんと?」

はパッと顔ごと視線を俺に向けた。そして、

「・・・・・・実は、ホラー小説なんか読んじゃったから一人じゃ怖かったんだ」

と、言って笑うと、椅子を引いて立ち上がった。




と話をしたのは、今日が初めて。
おとなしいとばかり思っていた彼女は、実はそうではなくて・・・

ただ単に活字中毒で休み時間も読書に熱中しているからだということがわかった。














そして今日から、俺の日常が少しだけ、変わった。













次の日の部活から、俺には一つの癖が出来た。
ノックが始まる前に教室の方をちらりと見ること。




今日は電気がついている。



俺は何故だかそのことが少し嬉しくて、笑っていた。

コーチやチームメイトから「ニヤニヤしてんなー」なんて言われた。
けど、本日もきっちり三本で終了。



皆がだらだらと着替えている中、俺はすばやくそれを済ませると、

「んじゃ、お先失礼しまーす」

と、声を掛けて、そそくさと部室を後にした。









向かうは、教室。



扉を開ければ、案の定彼女の姿があった。
彼女の傍にそっと寄ると、ポンと肩を叩く。

いつもと同じように、ビクリと反応する彼女が、可愛らしかった。


「わ、や、山本君!」

「いい加減慣れろよなー」


俺は、の隣の席に座った。
は、そんな俺を見てから、思い出したように時計に目をやる。

「またやっちゃったのかー・・・」

と、溜め息混じりな彼女の声。


「なあ、

「ん?」

「俺、送ってく」

「え、でも、最近ずっと送ってもらっちゃってるし、悪いよ・・・!」

「つーか、送ろうと思ってコッチ来たんだし」

俺が笑顔を向けると、はちょっとだけ頬を赤らめた。
そんな顔が、また可愛い。

「もう時間も時間だし、一人歩きはあぶねぇじゃん」

「や、でも・・・山本君、部活後だし、疲れてるんじゃ・・・」

「へーきへーき」

それでもなかなか渋る
もしかして・・・、と、少しだけ嫌な予感が走る。

、一緒に帰るの見られたくないヤツ居るとか?」

「なっ・・・!そ、そんな人は居ないけど・・!」

今度は真っ赤になって、そして否定する
俺は何故か胸をほっとなでおろしていた。

「んじゃあ、俺に今度面白い本でも紹介してくんね?」

「・・・え?」

「俺が送って行ったお礼に。それでチャラな」

「・・・わかった」

なかなか引かない俺に、ついに観念したは、ちょっと困ったような笑みを向けた。




・・・・・・・・・。









「・・・山本君?」

はっと気づけば、すでには教室のドアに手をかけていた。

「あ、わ、悪い、今行く」

俺はあわててのそばへと駆け寄った。




・・・ヤバかった・・・。

今の顔は反則だろ・・・。



俺は右手で自分の顔を少しだけ隠した。











――熱い。












06/10/30
・・・まーた微妙な終わらせ方だなぁ(汗)
「微妙」という言葉が大好きなダメ管理人です。

ちなみに山本はお弁当だと思ってます。父の愛情弁当。
で、ツナとおかずの交換とかしてればいいと思ってます。