あたしは同じクラスの山本武がとにかく苦手だ。 笑 顔 に 気 を つ け て ! みんな騙されている。 山本武の爽やか(そうに見える)笑顔に。 あたしはそう思いながら、屋上へ向かう階段を登っていた。 バンッと勢いよくその扉を開ければ、 その扉の向こうに広がるのは、綺麗な青空と、気持ち良さそうに寝転んでいる山本武。 なんだってあたしが山本武なんかのために わざわざ屋上までの階段を息を切らしながら登らなきゃいけないんだ。 心の中で色々と毒づいてみるものの、本人を前にそんなこと言えるはずもなくて、 あたしは山本武の傍までツカツカと歩みを進める。 「山本武!!」 あたしは大きな声で呼んだ。 「んー・・・」 けれども山本武は眠りの世界へ旅立っているらしく、一向にまぶたを開ける気配がない。 あたしはイラッとしながら山本武を見下ろせるぐらい近くまでやって来た。 「山本た・・・」 もう一度名前を呼ぼうとするのとほぼ同時に、山本武の目が開かれる。 「・・・ピンクの水玉」 ビクリ、とあたしはすごい勢いで後ずさった。 「んなななな・・・!」 と、同時に制服のスカートを押さえつける。 山本武はゆっくりと起き上がると、ニッカリと笑った。 「変態!!スケベ!!痴漢!!」 あたしが抗議の声を上げると山本武は今度は「ははっ」と声を出して笑う。 「誰ものパンツなんて見たくねぇよ」 「ひ、ヒドッ」 「それより、ん」 山本武はそう言って右手をあたしの方へ差し出した。 あたしは「うっ」と躊躇う。 「・・・・・・」 山本武は、いつもの声色より、ちょっと低い声で諭すようにあたしを呼んだ。 それでも躊躇うあたしに、痺れを切らしたように今度はちょっと目つきを鋭くした。 あたしはようやく決心して、ビクビクと怯えながらも、山本武に近づく。 そして差し出された右手に、(今朝、あたしが必死こいて作った)お弁当箱を置いた。 「・・・お、サンキュー」 山本武は満足そうな笑みを浮かべると、お弁当箱を楽しそうに開ける。 ・・・事の始まりは、昨日。 あたしは友達と楽しくお昼を過ごしていた。 お弁当の中身の交換っこは、あたしが中学で一番楽しみにしている時間。 ・・・と、前にに言ったら 「が一方的におかずを奪っていくだけでしょ」なんて言われたけどね! その日もあたしは友達ののタコさんウインナーを頂戴していた。 「あー!のタコさんだ!もーらい!」 「こら、っ!」 「んー・・・んまい!」 満足げに笑うあたしに、は苦笑。 「のお弁当はやっぱりおいしいな〜」 「のもおいしいよ?」 「のは、の手作りでしょ〜?」 「まあ、ね」 「あたしのはお母さんの愛情弁当だもん」 そんな風に、会話をしていたら、ちゃっかりやって来たのは山本武だった。 「え、ってもしかして料理できねぇとか?」 「は?」 あたしの楽しいランチタイムを邪魔しにきやがったのか。 少し前から、何かというと山本武はあたしに絡んできていた。 あたしは山本武に何かしたか?と考えてみたものの、 コレといって何かを思いつくはずもなく、山本武を威嚇していた。 ニヤニヤと笑う山本武に、あたしはついついカチンと反応してしまう。 「バカにしないでよ!あたしだって料理ぐらい出来るし!」 箸を置いて、あたしは立ち上がった。 「へーぇ」 「あ!!疑ってるでしょ!?」 「そりゃあなぁ〜。いっつも他人の弁当つついてばっかり出しな〜」 「ムッカー!!」 「んじゃあ、弁当作ってきてみろよ」 「よぉし!作ってきてやる!見てろ、山本武ー!!」 あたしはビシッと山本武に人差し指を指す。 それを見た山本武がニヤリ、と笑ったのはきっと気のせいではなかったと思う。 上手い具合に乗せられた、って気づいたのは 山本武が爽やかに去っていってからだった。 フン、と息を吐いてから着席すると、が苦笑しながら 「アンタ、乗せられたね」 と、一言言ったのだった。 翌朝、つまり今朝。 あたしはいつもより1時間早く起きて、普段めったにやらない料理と格闘したのだ。 頑張った甲斐あって、なかなか見栄えも良く出来上がったと思うお弁当。 あたしはその出来栄えに大満足! ・・・と、しているところにやって来た母親に 「あら?彼氏にでもお弁当?」 なんて言われて、あたしは思わず両手を床につけた。 (そうだよ、あたし・・・!なんだって山本武なんかのために・・・!) ああなんか上手く乗せられてここまできちゃったよ。 あたしは正真正銘のバカだ。今更だけど。 そうして、現在あたしは何故か居様にドキドキしていた。 別にたいした理由なんてなくて、 ただ単に自分の料理を他人に食べてもらうなんて初めてのことで、 あたしは緊張しながら山本武の言葉を待っていた。 「・・・ん、意外とウマい」 「意外とってなによ!」 ホッと小さく息をつくと、それがばれないようにいつものように言い返した。 「・・・つか、いつまで立ってるんだよ。座れば?」 山本武は、箸をくわえ、あいている方の手で自分の隣をポンポンと叩いた。 「いや、あたしはもうアンタに用はない!」 山本武の傍にこれ以上いる意味はない、とあたしはそそくさと立ち去ろうとした。 けれども、それよりも山本武の方が早く動く。 「うわっ!」 ぐいっと腕を引っ張られて、あたしはバランスを崩す。 「いった・・・」 「あぶねー・・・弁当死守」 「あぶねーって、あんたのせいでしょ!」 パッと顔を上げると、思いのほかに近かった山本武の顔。 すっぽりと山本武の腕の中におさまっているあたし。 あたしは顔が一気に熱くなるのを感じた。 あたしはあわてて顔を逸らす。 「な、何なのよ、いったい・・・」 山本武の考えていることも、あたしの心臓がこんなにもドキドキといっているのも。 あたしにはわからない。 「・・・・・・」 「え?」 いつもは苗字で呼ばれているから、 不意に名前で呼ばれたことに驚いて、また顔を上げる。 「・・・ごちそーさん」 ニッコリと笑う山本武に、あたしは目を見開くことしか出来なかった。 い、今、コイツは何をした・・・? 「い、」 「ん?」 「いやー!!へへへ変態っ!!」 あたしは山本武の腕の中から抜け出そうともがく。 「な、あぶねぇって!弁当こぼれる!」 「離れろ!変態!!」 あたしが1時間以上かけて作ったお弁当のことも今は構っていられなくて、 なんとか逃げ出すと、あたしはすごい勢いで屋上を後にした。 転びそうになりながら、階段を駆け下り、近くの女子トイレに逃げ込む。 鏡に映った自分の真っ赤な顔を見たくなくて、両手で顔を覆った。 (・・・な、なんで・・・キス・・・?) 山本武は、謎だらけだと思った。 07/02/01 山本武の笑顔に何が隠れているのか気になってしょうがない。 |