三井と付き合い始めて、もう1週間が過ぎていた。
あたしは、いまだに三井に別れを切り出せずにいる。




だって、三井ってばすごい嬉しそうな顔してるんだもん。

悪いって言うことはわかってる。
だけど、この1週間、三井は本当に今まで見せたことのないようないい表情であたしを見るんだ。
・・・そしたら、「ああ。なんだか愛されてるって良いかも」なんて思っちゃうあたしが居る。

・・・・・・や、なんだか自惚れてるみたいで嫌だな、自分。




そんなこんなでずるずると1週間。
キスされそうになったことも、何度かあるけど・・・そこは何とか阻止してきた。

ゴメン、三井。




















伝 わ れ 、 キ ミ へ
























「おい、

「んー?」


この1週間での大きな変化。
三井はあたしを名前で呼ぶようになった。

最初は、何故かあたしの方がすごい照れた。
三井は自分のことも名前で呼べ〜とか言ってたけど、あたしは恥ずかしくて無理だった。


あたしの前の席に腰を掛けると、ほんの少しだけ顔を赤くしながら三井は話し始めた。
そんな三井の表情を見るたびに、あたしは胸が締め付けられる想いだった。

「日曜、バスケの試合なんだけど」

「あーはいはい。見に来いとね」

「・・・そーいうわけだ」

「気が向いたら行くよ〜」







そんなわけで、日曜日。

あたしは初めて三井の試合を見ることになった。
いままで、練習も試合もまったく見に行ったことがなかったから、その熱気に開いた口が塞がらなかった。



対戦相手は、陵南。
あたしは三井のバスケをしている姿を初めて見た。

・・・なんていうか、悔しいんだけど・・・かっこよかった。


シュートを決めるたびにあたしの方を見て、にやりと笑う三井。
あたしは、そんな三井の表情に心臓のドキドキを必死に抑えた。









試合が終わると、あたしはそそくさと体育館を後にした。
こんな三井の姿を見た後、一緒に帰ろうとか言われたら、あたしの心臓が持たない。
いま、絶対顔赤いし。



「わっ」

体育館を出て、廊下の角を曲がると、そこで人とぶつかった。

前方不注意。
三井のことで頭がいっぱいだったなんて、不覚過ぎる。


「・・・す、すみませ・・・」

じゃん」

あたしの謝罪の言葉をさえぎって聞こえたその声に、あたしは覚えがあって顔を上げた。
そこに居たのは、よく知る人物。

「・・・彰?」

幼馴染でひとつ年下の、仙道彰だった。


「バスケの試合見に来るなんて珍しいね。俺が誘ったときは一回も来たことないのに」

ハハ、と笑う彰は、試合が終了して間もないのか、額に汗が光っていた。

「うーん。まぁ、なんとなく。ってかせめてちゃん付けで呼べって言ってるでしょ。年下!」

の方が妹みたいな感じだけどね」

「・・・失礼極まりないね・・・」


彰とは幼馴染だけど、あたしが神奈川に引っ越してからはずっと話す機会もなかった。
彰が神奈川の高校に進学した、という話は親伝いに聞いてはいたけれど。

だから、実はすごい久しぶりの会話。


「彰、試合出てたんだね。気づかなかった」

「え。俺、大活躍してたんだけど・・・」

「あ、そうなの?」

、何見てたんだよ?」

「何って・・・」







三井だった。





試合中、あたしは三井しか見ていなかったことに、いまさら気づいた。
おさまりかけていた顔の赤みが一気に戻る。






!!」

その後、何とか話をそらしながら彰と談笑していると、急にあたしを呼ぶ声がした。

「あ、三井」

それは、三井で、あたしは普通に声を掛けた後、さっきのことを思い出して、視線をちょっとだけはずした。



「どこ行ってたんだよ。探した」

「あ、うん・・・ごめん」

「帰るぞ」

少しだけ怒りを含んだ声色で、三井はあたしの腕を掴むと、ぐいぐいと進んだ。

「み、三井!?」


あたしは、驚きながらも、振り返るとあの場にまだ立っていた彰を見た。

「じゃ、じゃあ、彰!またね!」

「んー」

彰は手をひらひらと振っている。
表情は、ニヤリ、って感じ。なんか、ムカつく。















「・・・仙道と、知り合いなのか?」

「え?あ、うん。幼馴染」

しばらく沈黙のままだった三井とあたし。
人気のない公園に入ると、あたしたちはブランコに腰を下ろした。

あたしとしては一刻も早く帰りたかったんだけどなぁ。
だって、さっきから心臓がバクバクしっぱなしで、どうにかなっちゃうんじゃないかと思ったから。


「・・・仙道の名前、彰って言うんだな」

「??そーだけど・・・どうしたの?」

「・・・名前」

「うん?」

「何であいつは名前なのに、俺は苗字なわけ?」

「・・・・・・」

「・・・二人で、楽しそうに話してたし」

「・・・・・・」



あ、あれ。
これはもしかしてもしかしなくても、ヤキモチ焼いてる・・・?








「・・・俺ばっかり好きみてぇじゃねぇか」









柄じゃねぇ、と呟く三井を見て、
ちょっと嬉しいかもなんて思った気持ちはすぐに消えて、切なさが込み上げてきた。


「・・・お前が、俺のことを好きじゃなくても、彼女としていてくれるならそれでもいいと思った」


「・・・・・・」



三井は、全部知ってたんだ。
あたしの気持ちが、まだ三井に向いてなかったことを。

それでも、必死に、あたしに別れの言葉を告げさせない努力をしてたんだ。



「・・・けど、やっぱ無理だ」


三井にしては珍しく、俯いたまま言葉を続けている。
あたしはそんな三井の表情をまっすぐ見つめた。








「・・・と一緒にいると、俺、ますますお前のこと好きになっちまって・・・」






夕日が、あたしたちをオレンジ色に染め上げる。








「・・・お前の気持ちが俺にないのが、すげぇ苦しい」





ああ。あたしは最低だ。
あの時、告白されたときに気づくべきだった。

三井の、些細な変化も見逃さずにいれば、三井にこんな苦しい思いさせなかったのに。


・・・過ぎたことはしょうがないってわかってる。

気づくはずないって言うのもわかってる。


でも、・・・そう思わずにはいられなかった。






「・・・三井、ごめん」


あたしは、立ち上がると、三井の向かいに立って、頭を深く下ろした。

「・・・やめろよ。お前は悪くねぇ」







顔を上げた三井は、つらそうに笑っていた。







「・・・・・・ごめん・・・」







あたしが泣くべきじゃないってことは、わかってた。
本当に泣きたいのは三井だ、泣いちゃいけないって、心の中で何度も叫んだ。

けれど、あたしの気持ちを無視して、涙は次から次へと溢れ出てくる。










あたしは、三井を傷つけた。










06/08/12
2話目なんとかアップ!
えっと・・・幼馴染に仙道を登場させたのは私の趣味です。はい。