幼馴染と言う関係。 それは、とても近い位置にいるようで、実はすごく遠いもの。 S e a s o n 春
同じ中学に通っていたって、とっても遠い存在だった。 一方は(自覚はないけど)かなりの人気者。 そしてもう一方は、たいして可愛くもない、本当に普通の人。 家が隣だからって、ただそれだけだもん。 朝のHRで配られた「進路希望調査」と書かれたプリントに、目を落とす。 ・・・まだ4月だっていうのに・・・。 こんなプリントを配られると、「受験生」である実感が沸いてくる。 はあ、と溜め息をひとつ。 (あいつは、どこの学校に行くんだろう・・・) そう考えた後で、自分に思わず苦笑してしまう。 いい加減、あきらめたつもりだったんだけど。 やっぱりあたしはまだ好きなんだよなぁ。 提出期限は金曜日。 それに最終決定って言うわけでもないし。 適当でいいかな、なんて思いながら、乱暴にプリントを机の中にしまいこんだ。 「ねぇ、ー高校どこするの?」 休み時間に親友のがあたしの席の前にやって来た。 とは幸運にも3年間同じクラス。 「んー・・・わかんない」 「だよねぇ」 「とりあえず、近いから湘北って書いとこっかなーって感じ?」 あははと二人で笑った。 それから、他愛もない世間話・・・ たとえば、昨日あの俳優がテレビに出ていたとか、誰君がカッコイイだとか。 ・・・そんな風に話をしていたら、クラスメイトの女子が数名、あたしのそばにやって来た。 「・・・ちゃん」 あたしは、名前を呼ばれただけで、なんとなくわかった。 だって、そんなに仲良くもないクラスメイトが話しかけてくる理由なんて、 あたしにしてみればひとつしか思い浮かばなかったから。 「なぁに?」 それでも4月になってクラス替えをしたばかり。 クラスメイトとは少しでも仲良くなりたいって言うのがまあ、あるわけで。 あたしは愛想よく答えた。 「ちゃんって、隣のクラスの流川君の幼馴染なんだよね?」 ほら、やっぱり。 そう思いながらも、あたしは笑顔を崩さない。 「ん、そうだよ」 「・・・流川くんがどこの高校行くかとかって・・・わからない?」 「んー・・・ごめん、わかんない。幼馴染って言ったって全然話とかしないし」 「そっか。・・・ありがと」 クラスメイトはペコリとお辞儀をすると、自分たちの席へ戻っていった。 ・・・全然話とかしない、か。 自分でいいながら、ちょっと悲しくなってきた。 流川、っていうのは、あたしの幼馴染の流川楓のこと。 容姿端麗、おまけにバスケ部のキャプテン。 学校中のアイドル的存在といっても過言じゃない。 あたしは、そんなすごいやつを幼馴染を持ってるわけです。 ・・・幼馴染なんていっても、前にも述べたとおり、 中学に上がってからなんてそれこそ全然話をしていない。 向こうはバスケが忙しくて、とにかくすれ違い。 ・・・まあ、そんな風に感じてるのもあたしだけなんだろうな。 だって、あたしは楓が好きだから。 向こうにとっては、ただの幼馴染なんだろうけど。 けど、不思議だ。 なんであたしは楓が好きなんだろう。 だって、あいつは無口だし無愛想だし、目つき悪いし・・・。 ・・・好きなモンは、好きなんだよな。 色々考えて、あたしがたどりつく最終結論は結局これ。 「・・・進路希望調査、ねぇ・・・」 いつのまにか提出期限が明日と迫っていた。 夜、あたしは机に向かって、高校名を書いては消してを繰り返していた。 親には、「お前の好きなところに行きなさい」なんて言われてるけど・・・ そう言われると、逆に困るんだよね・・・。 やっぱり湘北高校かなぁ。 あたしは、今現在何をやりたいのか自分でも良くわかんないし・・・ そういうのを探すなら、県立だし、近くて親の負担も少ないから持ってこいなのかも知れない。 うーん、と低いうねり声をあげながら考え込んでいると、 不意に窓がカツン、と音を立てた。 最初は気のせいかと思ったんだけど、それが何度か続いて・・・ ちょっと気味悪かったけど、あたしは勇気を振り絞ってカーテンを開けた。 「・・・・・・・・・おっす」 あたしは、思わず目を見開く。 だって、そこに居たのは、ここ数年全くといっていいほど会話をしていない幼馴染がいたから。 ・・・当たり前といえば当たり前。 だって、あたしの部屋のベランダの向こう側、それが楓の部屋。 そういえば、昔はたまにだけど、こうやって会話をしたものだ。 それでも、こうやって楓からあたしを呼ぶなんてこと、今までになかった。 あたしはたまにカーテンの隙間から、楓がいないかな、なんて覗いたりしたこともあったけど 楓は部屋に寝るために帰っているようなもので、その部屋に明かりがつくことは少なかった。 それが一体。 今日はどんな風の吹き回し? 雪でも降るんじゃないだろうか。 「・・・お、おっす・・・」 あたしは窓を開けると、ベランダに出て、やっとそれだけ言った。 春の夜は、やっぱりまだ少し寒い。 「・・・久しぶりだね、隣なのに」 ちょっと沈黙が続いた後、あたしが切り出すと、楓は「ああ」と短く返事をした。 その返事に、相変わらずだなぁと思わず苦笑してしまう。 「・・・で、何か用?」 「・・・・・・ああ」 楓は、ぼりぼりと頭をかくと、ぼそりと言った。 「・・・・・・高校・・・」 「高校?」 思わず聞き返すと、楓は何も言わずにうなずいた。 そして、 「・・・どこいく?」 ときいてきた。 「あたし?」 あたしは、きょとんとしてしまう。 いまいち意味がわからない。 「ん」 「・・・なんで?」 「・・・進路希望のやつ、明日までだし・・・」 「・・・そうじゃなくて、」 ききたいことがそういうことじゃないのは、きっと楓も気づいたと思う。 まっすぐにあたしを見ていた視線が、下へずれると、しばらく押し黙った。 それでもあたしは、楓が言葉を発するまで、辛抱強く待った。 「・・・おめーと同じとこいきてぇ」 どのくらい沈黙があったのかはわからない。 あたしは、楓の言葉に思わず言葉を失った。 「・・・あたしと、同じとこ・・・?」 無意識のうちに、楓がいったこを繰り返していた。 楓はまた、うなずいた。 「だから、高校教えろ」 命令形なのは、このさい気にしないことにしよう。 あたしは、どんな理由があるのかはわからないけれど、 楓がそんな風に言ってくれたことが、たまらなく嬉しかった。 少しでも楓があたしのことを気にしていてくれたんだ。 だって、中学生になって全然会話らしい会話もしてなくて・・・ 楓にとって、幼馴染なんて何にも特別じゃなくて、 あたしのことなんか、もうすっかり忘れて、 たまにそんなヤツもいたなーなんて思い出す程度だと思ってたから・・・ 「・・・・・・しょ、湘北高校・・・」 「・・・そか。りょーかい」 あたしはやっとの思いで高校名を口にした。 そしたら、楓は、また頭をぽりぽりとかきながら、返事をする。 楓は「それだけだから」と言うと、踵を返す。 あたしは頭がついていかなくて、混乱していた。 「・・・おめーも、早く部屋もどれ。風邪引く」 という楓の声に、はっとして、「あ、うん、おやすみ」というと、部屋の中へ戻った。 あたしは窓の鍵を閉めて、カーテンをシャッと引くと、ベッドに倒れこんだ。 な、なんなんだ・・・? 突然すぎる出来事に、頭の中はまだごちゃごちゃとしていた。 赤くなってる顔を両手で押さえると、 あたしはやっぱり楓が好きなんだって、改めて思い知った。 そんな、中学3年の春の日の出来事。 07/01/08 今年一発目は流川でした! 流川といえば、誕生日が1月1日ですよね〜。 誕生日夢じゃなくてすみません(笑) |