春、楓はあたしと一緒の高校へ行きたいと言っていた。

けれども、それ以来、やっぱり会話らしい会話はなくて、
楓の気まぐれに振り回されてるんじゃないかと、そんな気がしてならない。



















S e a s o n   



















中学最後の夏休み。


『受験生には夏休みなんてない。』

なんていうのは担任の脅しに過ぎなくて、あたしは夏休みを満喫していた。




中学3年の夏となると、ほとんどの人は部活を引退している。
あたしも同じで、部活を引退した。

けれども、あいつの所属しているバスケ部は、現在も試合の真っ只中。




あたしはこっそり、今日の試合を見に行くことを決めていた。

やっぱり好きな人の勇姿は見ておかないとね。

・・・なんてちょっぴり乙女な自分の思考に、小さく笑いながら
あたしは試合が行われている体育館へと向かった。






体育館の中に入るなり、もわんとした空気があふれてきた。
あたしはそれに一瞬「うっ」となりがらも、飛び込んできた歓声と、
ガツンと叩きつけられたリングの音にあたしは目を奪われてしまった。







・・・か、かっこいい・・・・・・



あたしの視線の先にいたのは、言わずもがな流川楓。

フーっと息を吐くと、楓はユニフォームで汗を拭き取った。
「キャー」という歓声が体育館じゅうに響く。


・・・こういう試合を見に来ると、
楓の人気って言うのが痛いほどわかって、あたしは少しだけ凹んでしまう。

あたしと楓との間には、こんなにも分厚い壁があるっていうのを
見せ付けられてしまうような、そんな感じで。


あたしは、歓声を一斉に浴びている楓を見つめていると、
自分だけ時間の流れから切り離されたような、妙な感覚に陥る。





バスケなんてルールも全然知らないのだけれど、
楓のプレイはとても綺麗だと思った。








ドキドキしながら、その試合を食い入るように見ていると、




バチッ


なんだろう、楓と目が合った気がした。
いや、でもあたしは観客席の中でも後ろの方に居るし・・・

近くの楓のファンクラブ?みたいな人たちが
「今、流川君と目が合った!!」
って騒いでいるから、きっと気のせいだろう。





試合はうちの中学の勝利でその日は終わった。
あたしはなんとなく気まずくて、楓に気づかれないように、すぐに帰った。











その日の夜。
久しぶりに、あたしの部屋の窓がコツンと音をたてた。

あたしはドキドキしながらカーテンを開ける。
部屋の中はクーラーがきいていたから、窓の外は暑かった。
案の定居たのは楓。


窓を開けて、「どうしたの、」とあたしが口を出す前に、

「・・・なんで今日すぐ帰った」

と、楓が言い放った。
あたしはわけがわからず、首を傾げる。

楓はいつも言葉が足りない。
あたしはそれを理解するのにちょっとだけ苦戦する。


「・・・今日、試合、見に来てたろ」

「え、あ、まあ・・・」

あの人ごみの中、よくあたしに気づいたなぁ。
楓って視力いいんだっけ。


「・・・何で言わねぇ・・・」

「・・・楓に報告する必要がない・・・から・・・?」

あたしが考えてそう言うと、楓はハァと大げさに溜め息をついた。


「・・・・・・どあほう・・・」

「・・・はぁ・・・?」

一体どうしたものか・・・
楓の思考についていけてないです・・・


「・・・・・・・・・もう寝る」

「はぁ!?本当にわかんないんだけど!楓!?」

あたしの戸惑いなどまるで無視して、
楓は勝手にくるりとあたしに背を向ける。


あたしは戸惑うばかりだ。

「・・・・・・・・・あ・・・・・・」

そうしていると、楓は思い出した、と振り返った。


「・・・、今度おまえんち行くから」

「・・・え・・・」

「・・・部活終わったら、勉強、教えろ・・・」


・・・相変わらず、命令形なのね・・・
うん、わかってる。あたしに拒否権はないんだよね。
・・・、拒否なんて、しないけど、さ。















やっぱりいいように振り回されているような、楓との関係。
・・・楓はいつも自分の都合で現れてばかり。


ある日・・・というか夏休み最後の日。
突然楓があたしの家へやって来た。

・・・楓があたしの家にやってくるなんて、小学生のとき以来だった。


何事かと思えば、

「・・・宿題」



・・・・・・・・・。

ああ、わかりましたさ。
宿題が終わってないというわけですよね。




「・・・で、何が終わってないの?」

とりあえず部屋に通して座らせておき、
あたしは台所から冷たい飲み物を持ってきた。

向かい合うように座り、楓に視線をおくれば、珍しく言いづらそうにしている。

「・・・・・・、ほとんど全部ってことですか?」

「・・・・・・・・・」

無言は肯定。
あたしは大きく溜め息をついた。


「・・・・・・バスケバカ」

(そんなところも、好きなんだけどね) ・・・っていうのは、心の中に閉まっておいた。


「・・・・・・」

「わからないところあったら声かけてね。あたし本読んでるから」

「・・・おい、」

「・・・・・・初っ端からっすか・・・」

「・・・・・・・・・すまん・・・」


知ってます。

楓がバスケばっかりだって言うことは、痛いぐらいに。
授業中はほとんど寝てるってことも、わかりきってる。


あたしもそんなに頭はいいほうじゃないけれど、
楓のために、なるべく噛み砕いて教えていった。
楓は無言で頷きながら、言われたとおりに問題をこなしていく。

でも、「写させてくれ」って言わないところはすごいと思うけどね。
・・・もちろん、あたしも写させてあげる気なんてさらさらないけど。

あ、そっか。
楓はあたしがそういう人間だって知ってるからだね。

・・・なんて頭の中で自己完結。



「・・・・・・・・・」

「あーはいはい。次はどこ?」

にゅっと身を乗り出すと、楓の指差す問題と手元の自分のノートを見比べる。
「えーっと」と言いながら教え方を考えていると、

「・・・む・・・・・・」

と、楓が小さく声を出した。

「?どうしたの?」

あたしが首を傾げれば、楓はぼそりと

「・・・・・・・・・いい匂い」

と言った。

「?何が?」

「・・・の匂い」

「っ!!」

あたしはバッと後ろへさがる。

「そ、そういうのはいいから、とにかく宿題して!」

あたしはドキドキとうるさい心臓をなんとか押さえつけ、それだけ言った。
楓は、下を向くと、シャーペンを動かしはじめる。
あたしはそれに小さくホッとした息を吐くと、元の位置へ戻る。

「・・・・・・

「んー・・・?」

すると、間髪入れずにすぐ楓が声を掛けてきた。
ぱっと視線を楓に合わせると、楓の綺麗な顔がずっと間近にあった。












「・・・やっぱ、甘ぇ・・・」







ペロリ、と舐められた唇。

「!!??」

あたしは思わず自分の手で自分の唇を押さえつけた。

今まで生きていた中でおそらく一番心臓がドキドキとなっている。
顔なんて見なくてもどれだけ真っ赤に染まっているのかわかる。



「な、な、なにしてんの・・・」

どもりながらなんとか言葉をつなげれば、

「・・・・・・うまそうだったから」

と、楓は至って普通に答えてみせた。





「・・・あ、あたしは食べ物じゃない!!」


あたしはベシッと楓の頭を叩いてやった。
そりゃあもう、軍神の力をこめて。







この年頃の男の子って、みんなこんななのか・・・?



楓の気持ちが全くつかめず、混乱した。






そんな、中学最後の夏休みの出来事。









07/02/06
続き物第二弾です〜。
これでかなり前進した感じで。

すいません、ありがち過ぎるネタですよね・・・
でも、こういうありがちなのを書くのが楽しかったりします・・・(爆)