「・・・今日も、練習・・・」 あたしは携帯のメールにがっくりと肩を落とす。 仕方ないって言うのはわかってる。 頑張って欲しいって思う。 けど・・・もう何日、メールだけの日々を過ごしたんだろう。 そのメールだって、毎日疲れているだろうから短文ばかり。 そろそろ、充電、切れちゃうよ。 阿部くんは平気なのかな? ・・・あたしばっかり、こんな・・・阿部くんのこと好きなんじゃないかな? あたしが阿部隆也くんと付き合って3ヶ月が経つ。 告白したのはあたしからだった。 同じクラスではあったけれど、そんなに話をしたことはなくて、 玉砕覚悟で望んだ、人生初の告白だった。 そうしたら返ってきた返事は、予想とは全く違うもので・・・ 「・・・あ、っと・・・俺でよければ・・・」 というものだった。 あたしはそれまで俯いていた顔をパッと上げる。 そして、そこに飛び込んできた頭まで真っ赤な阿部くんの姿で、 あたしもつられて顔が熱くなってしまった。 「・・・え、ほ、ほんと・・・?」 思わず聞き返してしまうと、阿部くんは「ほんとだよ」と言うと笑った。 あたしはその阿部くんの笑顔にくらりとめまいがした。 けれども付き合ったからと言っても急激に何かが変わるなんてことはない。 休み時間はいつも通りあたしは女友達と過ごしているし、 阿部くんも同じ野球部の花井や水谷くんたちと一緒に過ごしている。 お昼も別。おまけに阿部くんは早いし、夜も遅い。 変わったことと言えば、メールや電話をたまにするようになったことぐらい。 けど、メールをするのはいつもあたしから。 阿部くんは本当にあたしのことが好きなのかな? もしかして、ただ告白されたのが嬉しかったからだけなんじゃ・・・。 ううん。 阿部くんがそんな人じゃないって言うのはわかってる。 けど、不安になってしまうんだ。 「・・・で。それを俺に相談するの?」 向かい合うように座った教室の机。 ふてぶてしい表情で頬杖を付いている相手に、あたしは体をちぢこませた。 「・・・事情を一番知ってる人ですので・・・」 「・・・・・・それはお前が色々言ってくるからだろ」 「感謝してます、花井様」 あたしはその相手ー花井梓ーに深々と頭を下げる。 花井とは中学が同じで、阿部くんに淡い恋心を抱いていたあたしは、 阿部くんが野球部であることを知ったや否や花井に色々ききまくったのだ。 花井が居るから、とか理由を適当につけては野球部の練習を見に行ったりもした。 花井は、めんどくさそうな顔をしながらも困っている人を放って置けない性質だから 何だかんだ言いながらもあたしの話を聞いてくれる。 「・・・お前さぁ、阿部に遠慮しすぎ」 「・・・そ、うかな・・・?」 親身に答えてくれる花井に、あたしももちろん真剣に返す。 「付き合ってんだからもっと甘えりゃいいんじゃねぇの?」 「・・・だ、だって、あたしから告白したし・・・ 阿部くん、あたしのこと本当に好きなのかなーって・・・」 あたしは、ぎゅっとスカートを握った。 きっと花井はまっすぐにあたしの事を見てるんだろう。 だから、あたしは視線をスカートの上にある自分の手に落としたまま。 はぁ、という花井の盛大な溜め息が聞こえてくる。 「阿部はそんなヤツじゃねぇよ。お前もわかってるだろ」 「う。そ、それは・・・・・・」 「めんどくせぇな、お前も阿部も」 阿部、という言葉に、あたしははじかれたようにパッと視線を上げた。 「・・・え、阿部くん・・・?」 「好きだって言われたんなら好きなんだろ?自信持てよな」 花井のその言葉に、あたしはハッとした。 「・・・・・・あ・・・」 「・・・何だよ」 「・・・あたし、阿部くんから好きだって言われたことない・・・」 ・・・そういえばそうだ。 あたしはまだ阿部くんから「好きだ」と言われたことがない。 ど、どうしよう・・・ なんだかますます自信がなくなっていく。 「・・・ああもう。しょーがねぇな・・・」 どんどん縮こまっていくあたしを見かねたのか、 花井は、ポリポリと頭をかいた後、すくっと立ち上がる。 そして、あたしの腕を掴むと、そのまま歩き出した。 「え、どこいくの?」 「・・・一役買ってやるよ」 「は、え??どういう・・・」 「とりあえず、付いて来い」 あたしは花井に促されるままに後を付いていく。 一役買ってやる、と花井は言ったけれど、それはどういう意味なんだろう。 あたしと花井は昼休みにお互いの友達にばれないようにこっそりと抜けてきた。 というのも、他の時間となると花井が忙しくて暇がなかったのだ。 そこで、あたしは花井にメールをしてわざわざ人のめったに来ない空き教室に来た。 本当に、花井には感謝しきれないな。 と、考えていると花井の向かっている先と言うのが想像できた。 「ちょ、花井、こっち教室じゃないの・・・?」 「ああ」 「え、ああって・・・」 教室に二人一緒に向かったら、別々に来た意味がないじゃない。 しかも、この状況。 腕を花井に掴まれているわけだけど、 はたから見れば手を繋いでいるように見られるかもしれない。 ・・・それは、ちょっと、まずいのではないだろうか。 「・・・・・・・・・」 花井はそれ以上何も言わずに、ただ足を進める。 そして、教室のドアを前に呼吸を置くことなく、ドアはガラリと大きな音をたてて開いた。 教室は騒がしかったけれども、その物音に一瞬だけみんなの視線が集まった。 その中には水谷くんとお弁当を食べていた阿部くんの視線も混ざっていた。 阿部くんと視線が絡む。 あたしは目を逸らすことができず、じっと阿部くんを見たまま固まった。 すると、あたしのことなんてお構いなしに、 花井はあたしの腕を引っ張り、教室の中へ入っていく。 「ちょ、花井・・・!」 ハッとして視線を阿部くんから花井に移す。 「・・・何グズグズしてんだよ、!」 花井はあたしの名前を気のせいか強調してそう言った。 「え、な・・・!」 あたしは花井に名前で呼ばれたことなんて一度もなかったからそれに驚き、目を見開いた。 そして、それと同時にざわついたのはクラスメイトたちだ。 あたしと阿部くんは付き合うようになってからも教室では以前と何も変わりがなかったから あたしたちが付き合ってるっていうことを知っている人たちはほとんど居なかった。 だから、騒いでいるクラスメイトたちが小声で 「え、あの二人付き合ってたの?」と驚いている。 どうしたらいいのかわからなくて、あたしはただ視線をあちこちに走らせていた。 すると、阿部くんが立ち上がり、こちらに向かってくるのが見えた。 あたしの体はビクッと震えた。 どどどどどうしよう! どうしたらいいのかわからない! 何もやましいことなんてないのだけれど、阿部くんの射抜くような視線にたじろいでしまう。 近づいてきた阿部くんに、花井は臆することなく、阿部の言葉を待っていた。 「・・・・・・これは、何なわけ?」 少しして、阿部くんは低い声でそう言った。 「・・・別に、何も」 花井は、至って普通にそう返す。 「・・・お前、知ってるよな?」 「ああ」 「・・・知ってて、何なわけ?」 ピリピリとした空気がそこを流れている。 その様子にクラスメイト達はガヤガヤと騒ぎつつもチラチラとこちらに視線を寄越している。 阿部くんと花井の間に居るあたしは、半端なく居心地が悪い。 「・・・、どう言うこと・・・?」 花井くんにあった視線があたしに。 阿部くんは全身から怖いオーラを放っている。 「・・・あ、」 「は俺がもらう」 あたしは、とにかく何か言わなくてはと思い、口を開いたが、 それを花井がさえぎった。 そして、その花井の言葉にあたしは目を見開いた。 「え、ちょ、は、花井・・・!?」 やっとの思いでそれだけ言ったが、花井は阿部くんをじっと見たままだ。 「俺はにきいてんだ」 「そうか。悪いな。んじゃあにきいてみればいいだろ」 花井はそう言うと、ずっと掴んだままのあたしの腕を離した。 あたしはホッとしてその腕を下ろそうとしたけれども、すかさずそれを阿部くんが掴む。 「・・・、場所、変えよう」 そう言うと、阿部くんはあたしの腕を引っ張り、教室を出ようとする。 あたしはそれにつられるがまま、後を追う。 そして、教室から一歩出たとき、ちらりと後ろをうかがうと、 花井が声には出さずに「ガンバ」と言ったのが見えた。 阿部くんに腕を掴まれたまま連れてこられたのは屋上だった。 屋上にたどり着いたのと同時に、予鈴が響く。 「・・・あ、の・・・阿部くん・・・」 阿部くんは黙ったままで、あたしは意を決すると声を搾り出した。 「えっ」 しかし、それをさえぎるように、阿部くんはあたしを抱き締めてきた。 「あ、あ、べく・・・」 突然のことに驚くと、阿部くんは腕に更に力を込めてくる。 「・・・、俺のこと嫌いになった?」 そう言った阿部くんの声は、普段とは別人のように弱々しい。 「・・・なってない。すきだよ・・・」 あたしの声も負けず劣らず弱々しかったかもしれない。 あたしがそう言うと、阿部くんは、「え」と短く驚きの声をあげ、あたしの顔を覗き込んだ。 「・・・じゃあ、なんで・・・・・・」 「阿部くん、誤解してる」 あたしは阿部くんの背中に腕を回すと、彼の胸の中に顔を埋めた。 そして、これまでの経緯を話す。 すると阿部くんは、小さな声で「花井のヤロウ・・・」と言った。 そして、その後すぐにあたしをまた抱き締めてきた。 「・・・ごめんな、」 阿部くんのその言葉に、あたしは何故だか拍子抜けしてしまい、 「何が・・・?」と尋ねた。 すると阿部くんは、ククッと小さく笑った。 「・・・のこと、こんな不安にさせてると思わなかった」 「・・・・・・あ、べく・・・」 「言って欲しい。俺、のわがままなら何でも受け止める」 耳元で聞こえる阿部君の声は、とても優しかった。 「絶対、迷惑だなんて思わねぇから・・・」 阿部くんがそう言ったとき、あたしは糸が切れたように涙が出てきた。 「・・・あ、たし・・・もっと阿部くんと会いたい。話したい。彼女だって胸張りたい」 「それから・・・」と続けるあたしのわがままに、 阿部くんは全然嫌がらずに「うん、うん」と返事をする。 「・・・阿部くんに、好きって言ってもらいたい・・・キスして欲しい・・・」 最後には嗚咽も混じってしまった。 「・・・・・・・・・」 言いたいことを全て言ったあたしに、阿部くんからの返事はなくて、 あたしは不安になってしまう。 どうしよう、やっぱりわがまま言い過ぎたのかも知れない。 そう思い、ちらりと阿部くんの方を向くと、 顔は見えなかったけれど、耳が真っ赤になっていた。 「あ、阿部くん・・・・・・」 蚊の鳴くような声で呼びかけると、阿部くんは、腕の力を緩めた。 そして、あたしの予想通り真っ赤な顔をしていた。 恥ずかしそうにあちこちに走らせていた視線を少ししてからあたしに戻す。 そして、 「・・・、好きだ・・・」 そう言った後、あたしに優しく、そして少しぎこちなく口付けた。 しばらくして唇が離れると、阿部くんはまたあたしを抱き締める。 そして、耳元で、 「俺も、もうに遠慮しねぇから。覚悟しておけよな」 と、ささやいた。 阿部くんのその言葉に、今度はあたしが耳まで真っ赤になる番だった。 おまけ(花井視点) 07/08/06 阿部は野球バカだからなかなか夢を書けないww |